政府が2018年を「副業元年」と位置づけ、副業や兼業の推進に舵を切って1年が経過した。民間の人事・人材関連の研究機関の調査によると、企業の正社員の1割以上が副業を行っており、その4割以上の副業開始のタイミングが「1年以内」で、兼業化が加速していることがわかった。
その一方で、副業している人のうち、少なくない人が「過重労働」を感じていることも判明した。
政府の後押しで加速
調査したのは、総合人材サービス、パーソルグループのシンクタンク、パーソル総合研究所(東京都港区)。従業員10人以上の企業に勤務する、20~59歳の男女正社員1万3958人を対象に、2018年10月26日から30日にインターネットでアンケートを実施した。
調査によると、正社員で現在、副業している人は10.9%。調査当時には行っていなかったが、始めたいと思っている人は41.0%おり、同研究所では「今後さらに増加していく可能性示唆している」と指摘している。
副業をしている人に、いつから始めたかを聞いたところ、開始のタイミングが1年以内だった人の割合が41.3%となり、そのうち「6か月~1年前から」は21.9%を占めた。このことから、政府の「後押し」がきっかけとなったことがうかがえる。
まだ70%以上の企業が禁止
副業はこれまで、本業によくない影響が考えられることなどから否定的にとらえられていた。たとえば、厚生労働省は企業が就業規則を制定する際のひな型としてつくった「モデル就業規則」で「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」としていた。
ところが、「働き方改革」の議論が活発になっていた18年1月に実施したモデル規則の改正では「他の会社等の業務」に原則、従事できると変更。厚労省はまた同じ時期に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、政府はそれまでの姿勢を180度転換し、副業を後押しする態勢を固めた。
政府のこうした政策変更や「副業元年」の位置づけをうけて、企業の人事関係者らの間では「大副業時代の到来」が見込まれており、今回の明らかになった調査結果は、その兆しを示している。
とはいえ、全面的な副業解禁にはまだまだ時間はかかるようで、リクルートキャリア(東京都千代田区)が18年9月に行った「兼業・副業に対する企業の意識調査」によると、兼業・副業を容認している企業は28.8%と前年の調査結果(22.7%)を上回ったものの、禁止している企業は71.2%にのぼった。
従業員10~49人の中小企業では45.4%が推進・容認の姿勢だが、中堅・大企業では8割近くが禁止している。
「過重労働」「本業への悪影響」
禁止している理由で最も多いのは、「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」で44.8%(複数回答)。続いて、「労働時間の管理・把握が困難なため」(37.9%)「情報漏えいのリスクがあるため」(34.8%)「競業となるリスクがあるため、利益相反につながるため」(33.0%)の順。
パーソル総合研究所の調査では、1週間あたりの副業にかける時間は平均10.32時間。本業と併せた1週間の総労働時間は平均54.81時間で、70時間を超える人もいる。「副業によるデメリット」として挙げられた上位2項目は「過重労働となり体調を崩した」(13.5%)「過重労働となり本業に支障をきたした」(13.0%)だった。同研究所は、副業者自身によるセルフマネジメントの重要性を指摘している。
欧米では当たり前、「ギグ」という働き方
副業や兼業をめぐる動きが活気づいているのは、インターネットの進化もある。パソコンやスマートフォンで仕事を見つけて応募。事務所などに通勤せず自宅でテレワークのシステムを使ってこなせることも多い。
日本では副業や兼業といえば、企業の正社員が本業以外に行う仕事を持つことを指すが、欧米ではいわゆる本業を持たず、さまざま仕事を兼業する「フリーランス」の存在が、労働力の相当な部分を占めるようになっている。米国では企業に雇用されず「ギグ(gig)」と呼ばれる単発または短期の仕事を受注するフリーランサーが増え、新しい働き方として「ギグ・エコノミー」という言葉が流行している。
「ギグ」は1日だけ、または短期間の仕事をさすことば。ミュージシャンらのあいだでコンサートや1回のセッションを意味するものとして、しばしば使われている。
「ウーバー」などの配車アプリが登場し、それを利用した個人的なビジネスが可能になり、ユーチューバーが仕事として認知されるなどに合わせて「ギグ」も新たな意味を持つようになったとみられる。
日本ではかつて、欧米では普通のことだった「転職」が、普通ではないこととみられていた。「ギグ・エコノミー」が本格上陸するかどうかは不明だが、政府が「働き方改革」の一環としてプッシュしている現状をみると、副業・兼業、あるいは「複業」が、転職と同じ道をたどり、まもなく「当たり前」のことになるかもしれない。