テニスの女子世界ランキング1位の大坂なおみ選手が、コーチを務めていたサーシャ・バイン氏とのタッグを解消すると発表して衝撃が走りました。
大坂選手は2018年の全米オープンと2019年1月の全豪オープンを連覇したばかり。バイン氏も年間最優秀コーチに選出された後だけに、「なぜ、このタイミングで!」と話題になっています。
「どぶに捨てた」わけじゃないんじゃない?
大坂選手の快進撃は、約1年前にバイン氏がコーチに就任した直後から始まりました。この間、ランキングは68位から1位に急上昇。テニス界に突如現れた若きニューヒロインとコーチとの初々しいコンビを、世界中のファンが暖かく見守っていただけに、契約解消のニュースは大きな衝撃を与えました。
Naomi Osaka splits with coach after rising to no.1 ranking
(大坂なおみ選手は、世界ランキング1位に登りつめた後に、コーチと決別する)
split with:(~と袂を分かつ、別れる)
メディアの中には、「ditch」(捨てる、見捨てる)という表現を使ったところもありました。
Naomi Osaka ditched her coach after successful year
(大坂なおみ選手は、成功した年の後にコーチを見捨てた)
「ditch」は「溝」「どぶ」という意味の名詞ですが、口語で「溝に捨てる=見捨てる」といった意味で使うこともあります。あまり上品な表現ではないようですね。
全米優勝後に行われた米CNNや英BBCのインタビュー記事を読み直すと、バイン氏は大坂選手と長期契約を交わしていることを匂わせていました。
バイン氏は、セリーナ・ウィリアムズ選手ら一流選手の練習相手を勤めてきたものの、コーチに就任したのは大坂選手が初めて。インタビューでは「長期間、選手の育成に関わることができてうれしい」と語っていただけに、コーチ解消の理由をめぐっていろんな臆測が飛び交っています。
真相は明らかになっていませんが、まだまだ報道が続きそうですね。
グランド・スラムを制した女子は別れを選ぶ?
今回のコーチ契約解消は、アジア勢初の世界1位に就いた大坂選手がより高いレベルを目指すための選択で、大坂選手陣営は以前からコーチ交代を検討していたとも報じられています。
じつは、トップに登り詰めた選手がコーチ契約を解消することはめずらしくありません。
2018年の全仏を制したシモナ・ハレプ選手と、全英を制したアンゲリク・ケルバー選手は、二人ともチャンピオンになった後にコーチと別れています。大坂選手を含めると、過去1年間のグランド・スラムを制した女子選手は全員、その後にコーチと別れていることになります。さらなる頂を目指すうえで、コーチの交代は「あり得る」選択なのでしょう。
また、一流テニス選手のコーチの報酬はさほど高くなく、遠征続きで家族になかなか会えないなど苦労も多いそうです。
そう考えると、今回のタイミングはバイン氏にとっては「グッド・タイミング」と言えるのではないでしょうか。初めての教え子を頂点まで導き、自身も最優秀コーチに選ばれる。指導者としてはおそらく「最高値」が付くタイミングで、今なら「引く手尼手」のはずです。有利な立場で契約交渉ができるでしょう。
「別れのタイミング」としてはいい選択だな、と思わず感心してしまいました。
実際、バイン氏もSNSで、大坂選手に感謝のことばを贈っています。
Thank you Naomi.
(ありがとう、なおみ)
I wish you nothing but the best as well.
(私もあなたの成功を願っている)
What a ride that was.
(すごい道のりだった)
Thank you for letting me be part of this.
(その一部に関わらせてくれたことに感謝している)
では、今週の「ニュースな英語」を。バイン氏のコメントから、「I wish you nothing but the best as well」を取り上げます。「nothing but~」は「~以外は何もない」という慣用句で、「あなたにとって『best』(最善)以外は望まない」という意味になります。
I wish nothing but the best for you
(あなたの成功を心から祈っている)
We wish you nothing but the best for your future
(我々は、あなたの幸せな将来を心から祈っている)
ドロドロの愛憎劇ではなく、感謝のことばを贈り合う、すがすがしい「別れ」に拍手を送りたくなりました。世界中の多くの人が、大坂選手とバイン氏のますますの活躍を心から祈っていることでしょう。(井津川倫子)