2018年のGDP(国内総生産)成長率が6.6%と、「28年ぶりの低水準」となった中国経済。米国との貿易摩擦もあって先行きを気にする見方が出ている。
しかし、広大な内陸部を中心に消費は底堅く、「その勢いを示す格好の指標がある」と、中国事情に詳しいクロスシー(東京・上野)の執行役員、山本達郎さんは語る。
創業わずか3年弱の2018年7月、米ナスダック市場に上場した新興ECサイト「拼多多(PDD=Pinduoduo、ピンドゥオドゥオ)」がそれ。月間利用者数が4億人近くに達し、ショッピングサイト「Taobao(淘宝=タオバオ)」の5億人に早くも迫っている。
安い商品がSNSでもっと安くなる
拼多多は、家電やファッションから日用品まで、幅広い商品を提供する点では、「中国EC2強」といえるアリババグループのTmall(天猫)・TaobaoやJD.com(京東=ジンドン)と同じですが、真っ赤な色使いが目立つトップページのデザインは、ひと昔前に中国で流行ったデザインを彷彿させます。
庶民性と取り扱う商品の低価格が、とにかく強烈な個性。サイトに表示されている割引率を見ると「9割引」も珍しくなく、たとえば「新品」というダウンジャケットがたった10元(約163円)で売られていることもあります。
そんな安い商品が、SNSを使うことでもっと安くなる。中国版LINEの「WeChat」で、「まとめ買い」をしたり、友人や親せきに情報をシェアしたりすると、さらに値段が割り引かれていきます。
たとえば、100人でまとめ買いすれば、10元のダウンジャケットが1元になったりもする。1元、つまり16円ですよ!!
商品を提供するメーカー側からすると、たとえ原価割れしても、これが広告費代わりとなり、商品認知度を高めることにつながりました。同時に、「2強」を追った拼多多は、この仕組みによって、口コミによってサイトを広げてもらうことになったのです。
SNSとECを結び付けた「ソーシャルコマース」モデルですが、中国人の「おしゃべり好き」、「儲けや『お買い得感』に敏感」という国民性や消費行動に絶妙にマッチしたECサイトだったがゆえに、ユーザー数を一気に伸ばしていったとも言えるでしょう。
グループ内でのチャットが簡単なWeChatでのやり取りによって、商品の値段がどんどん下がっていくわけですから、買いたい商品がある人にとってはワクワクしてきます。
値引きのほかにも、クーポンやおまけがつくなど、中国の消費者にすれば拼多多での買い物はとにかく楽しく感じられるようですね。
内陸部ユーザーのモノ凄い消費力
さらに、拼多多の急成長を支えたのは広大な内陸部に住む庶民層でした。その主なお客は、日本に個人旅行に来て爆買いをしたり、越境ECで海外の高級ブランド品を手に入れたりする層ではなく、地方都市に住む低所得層といえる人たちです。
北京、上海などの「1級都市」ではなく、4級、5級、6級などと格付けされる地方都市に住み、学歴の高くない人たちも目立ちます。ただ、その拼多多の取引件数が、先行したJD.comを、すでに越えたとの報道も出ており、地方ユーザーの消費力のモノ凄さを見てとることができます。彼らには先行した「2強」ECサイトの手が届いていなかったのです。
米ナスダックでの拼多多の株価や業績は、中国の国内消費の動向を見るうえで重要な指標となり、経済全体の先行きを見るうえで参考になるはずです。中国で、いまや個人消費がGDPの4割近くにのぼっていますから。
品ぞろえにも変化が。以前は、日系企業の商品は存在感がありませんでしたが、直近ではパナソニックの商品が並ぶようになっています。中国の経済成長率の鈍化を危惧する声も出るなか、成熟期に入りつつある沿岸部に住む数億人ではなく、成長著しい内陸部の10億人をターゲットとする拼多多という新興サイトを「先物買い」する思惑を、メーカーや投資家が抱いても不思議ではありません。