ここ2年ほど毎月、クライアント企業D社の店長会議に陪席しています。消費者向けサービスを提供する企業なので、営業会議の中心テーマは「いかにして実績数字を伸ばすか」ということに尽きます。
この問題、もちろん戦略、戦術的な議論もあるのですが、突き詰めていくと必ずと言っていいほど、スタッフの営業力強化策をどうするか、平たく言えばいかにスタッフを教育して営業スキルを上げさせるか、というところに突き当たるのです。
重要なのは「営業スタイル」という「知識」
営業管理、営業教育の現場では、私は持論である「成果の法則」なるものを軸に据えて指導させていただいています。
「成果の法則」とは「成果=営業知識量×営業量」というもので、簡単に申し上げると、「営業担当者は営業知識をしっかりと身につけたうえで、営業機会すなわちセールス回数を増やせば、その掛け算で必ず成果は上がる」という内容です。
担当者を教育する立場の店長はじめ管理者の人たちには、「担当者にどのような知識を身につけたらいいのかを具体的に指示。そのうえで、営業機会を増やすための管理と支援をしなさい」と、指導するわけです。
営業は、まずは営業知識です。どんなに営業機会を増やそうとも、そもそも知識が伴わなくては成果にはつながりません。では、営業知識とは何かというと、一般的には自社商品とか、競合相手の商品とか、売り込み先情報(対企業の場合には相手先の業界情報であり、対個人場合には家族構成や想定年収など)とか、がその中心になるわけですが、じつはそれらと同等、あるいはそれ以上に重要な営業知識があります。
それは、「営業スタイル」という知識です。
知識としての営業スタイルとは、顧客を相手にどのようなやり取りあるいはセールストークをしたら、自社の商品を買ってもらいやすいか、という知識です。一見すると、知識として認識されにくいものなのですが、営業において成果をあげるためには、じつはこれがモノ凄く重要なファクターになっています。
「ロールプレイング」の盲点
では、具体的に知識とすべき営業スタイルとは何か――。それはイコール営業実績が上がっている人の売り込みやセールスのやり方なのです。しかし、先輩や同僚であっても、現実には優秀な営業担当のセールスの現場に立ち会って、そのやり方を知るチャンスはあまりありません。
そこで重要になるのが、ロールプレイング(以下ロープレ)という教育の場の活用なのです。
先日、このD社においても、担当役員から店長に「担当者教育で、具体的に何をしているのか」という質問がぶつけられると、店長から出された回答のほとんどが、「定期的にロープレをさせて、担当者のスキルアップをはっています」というものでした。
ここまではいいのですが、私が気になったのは、そのあとに補足として何人かの店長が付け加えていた、「実績が上がらないスタッフには、特に重点的にロープレをさせています」という話でした。じつは、ここに意外な盲点があるのです。
ロープレの目的は、果たして未熟なスタッフの実践練習であるべきなのか否か。もちろん、セールストークの実践練習としてロープレを活用することは無意味ではありませんが、ロープレの一番の目的は、じつはそこではありません。
セールスで成果を上げているスタッフのセールストークを見て学ばせること、そこにこそロープレ最大の目的を置くべきなのです。まさしく、生きた営業スタイルを学ばせる格好の場、それがロープレなのです。
これは間違った理解をしているケースが意外に多いのです。
デキるスタッフをマネる!
店長たちのこの話を聞いて、私は思わず挙手して発言しました。
人間は幼い頃から人の行動を見て学ぶ動物であり、歩いたり話したりする親の姿を見て自分もそれをマネで歩いたり話したりできるようになるのだということ。ロープレも同じ、成果の上がらないスタッフが練習することよりも、まずは成果が上がっているスタッフのセールストークを皆で何度でも見て聞いて、それを上手にマネることが重要なのだ、と強調しました。
ふだん、店長会議ではあまり口を開かず静かに成り行きを見守っている社長が、私の話を聞いて思わず声を上げました。
「それは私にも思い当たるフシあり。新人サラリーマン時代、飛び込みでOA機器販売をしていてどうやったら商品を買ってくれるのか、まったくわからず成果も上がらず。もう辞めようかと思っていたとき、ダメ元で先輩に頼み込んで同行訪問をさせてもらい、セールストークを見てマネしてみようと思ってね。そしたら、それを機におもしろいように売れるようになったわけ。コツってあるんだなとつくづく思いました。マネだって立派なテクニック。ロープレでは、できるスタッフの手本を見て学ばせることを徹底してください」
今後、D社の店長会議でどのようなロープレ効果が報告されるのか、ちょっと楽しみです。
営業スタイルに限らず、教育指導の盲点は意外にあるものです。良かれと思い、ああやれこうやれと、事細かに指導してもなかなか身につかない。あるいは、やってごらんと言ってやらせてみてから、そうじゃない、こうしろああしろと言っても、本人は右から左だったり。教えることの近道は、黙って手本を見せることだというのは、意外に見落としがちなものです。
「育たない」「上達しない」「身につかない」と思ったら、社長自身がまずやって見せるというやり方が、じつは一番効果的だったというケースも、よくある話です。(大関暁夫)