危機は「政治」からやってくる 経済分析だけで市場予測できない時代(志摩力男)

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   2019年1月31日、トランプ米大統領は中国の劉鶴副総理と会談。「習近平主席と早期に会談し、米中が経済貿易問題で合意に達する歴史的な瞬間をともに見守りたい」と発言しました。

   ところが、2月7日の米ニューヨーク株式市場では「3月1日の期限前に米中首脳会談はないだろう」と米高官筋から伝わり、米中貿易問題解決への期待が一気に吹き飛んでしまいました。ラリー・クドロー米国家経済会議議長も、米中の隔たりが大きいと認めています。

  • 米中貿易戦争のゆくえは……
    米中貿易戦争のゆくえは……
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米中情勢、ホントのところ

   トランプ米大統領と劉鶴副総理は、あれほどにこやかに会談していたのに何があったのでしょうか――。米中貿易戦争に関して、我々に入ってくる情報は、ほとんどが米国経由のものです。

   今回はもしかしたら、米国側の揺さぶりかもしれません。しかし、中国側が本当のところ、どう思っているのか、どのような戦略なのかということに関しては、まったくといっていほど情報がありません。

   客観的な情勢を見ると、米国経済は依然しっかりしており、中国経済は不安定。中国のほうが不利な立場に追い込まれており、「合意」を求めているように我々は思ってしまいます。

   米国の中国に対する世論を変えた本、マイケル・ピルズベリー氏の著作「CHINA 2049」によれば、中国はナンバー2にあるあいだは、ニコニコ米国に媚びへつらい、できるだけ波風立てず、国内総生産(GDP)が米国の2倍といった圧倒的に優位に立つまではガマンの戦略を取ると想定されています。

   しかし、本当にそうでしょうか?

   もしかすると中国はすでに次の段階、ある程度強く米国に対して出る戦略に進んでいるようにも見えます。

トランプ再選は中国次第?

   今、米国は強そうに見えます。ただ、2018年末に株価が急落したとき、米国の狼狽ぶりには大変なものがありました。トランプ大統領は何度も米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長をツィートで攻撃し、FRBはついに金融政策の変更に踏み切りました。そして、急速に貿易交渉を取りまとめようと動いたのです。

   これは中国側から見ると、米国のアキレス腱が金融市場にあるということを如実に示しているのではないでしょうか。株価さえ崩せば、「妥協」「ディール」が引き出せますから。

   トランプ大統領の最大の目標は2020年の「再選」です。そのためには高い株価が必要です。大統領はこれまで、「高い株価=経済政策」の成功というロジックで使っています。だが同時に、米中貿易戦争でも勝利しなければなりません。

   米中貿易戦争が激しくなると株価は下落するので、徹底的な勝利を求めると再選が遠のきます。よって、株価が高いときには米国は中国に対して攻撃的になりますが、株価が下落すると妥協を求めるという、傍目には首尾一貫しない対応になっているようにも見えます。

   また少々経済が混乱しても、習近平氏の権力基盤は揺るぎませんが、米国大統領は選挙で負けて消えることになります。2020年が近づくにつれ、中国側には貿易問題を意図的に悪化させて、米国株を下落させることで、トランプ氏再選を妨げるという戦略も取りえます。

   ある意味、これは自由な市場と民主主義という米国の根本が問われているとも言えます。

経済より「政治重視」の市場へ

   2019年の株式市場がどうなるのか、為替市場がどうなるのか。じつは、これはもう、経済分析では答えが出ないのではないでしょうか。米中貿易戦争の推移によって、結論が大きく変わってくるからです。中国側が「意図的に」金融市場に揺さぶりをかけてくる可能性が否定できないからです。

   よく話題になるのが、中国が大量に持つ米国債です。米国債を大量に売り浴びせることによって、米国債市場を暴落させることは可能です。しかし、それは自らが持つアセットを暴落させることになりますから、中国側にとっても損です。自ら損失を招く行動を中国側が起こすことはない、というのが金融界での常識になっています。

   しかし、国債という商品の特性から言うと、いくら暴落しても満期には元本が帰ってきます。これは株との大きな違いです。そして、中国人民銀行も、中国共産党の下部組織です。共産党側から司令が出れば、実行するでしょう。このときには、少々の金額の損得ではありません。

   年末年始の急落から株価は回復し、FRBも引き締め路線を放棄しました。リスクアセットには好環境に見え、株価も(何事もなければ)このまま高値を維持しそうです。しかし、経済より政治が重視される時代になったのです。

   危機は政治サイドからやってきます。その意味では読み難い時代になりました。(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
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