大河ドラマより持続可能性がある
巡礼的な現象を招く存在としては以前から、NHKの大河ドラマが知られるが、持続可能性という点ではアニメのほうが有望で、観光の資産価値は格段に高い。
たとえば、地域振興に大きな効果があった先駆的アニメとしては「らき☆すた」が知られる。4コマ漫画が原作で、その舞台は埼玉県久喜市鷲宮。当地の土師祭(はじさい)という地元の祭りで、2008年から「らき☆すた神輿」が登場しており、2017年で10周年を迎えた。
本書で引用されている観光行動論研究者による調査では、大河ドラマをめぐる観光への波及効果は、放映2年前の舞台決定時から徐々に見えはじめ、放映と年にピークとなり、その2年後には効果は消えてしまう。地域によっては放映前から、にぎわいが減退するところもあるそうだ。
「このことを考えると、07年に放映されたアニメ『らき☆すた』の舞台となった場所で、地元のお祭りに作品をテーマにした神輿が10年出続けるというのは驚くべき事態」と、著者。地元で調査をすると、商工会のメンバーらが訪問者らに聞いて、人気アニメの舞台になっていることがわかり、それまではなかった観光客受け入れの態勢を整え始めたそうだ。
当初、住民のあいだでは、予期せぬ「観光客」の大群に恐れをなす向きもあったが、街が活性化していくのを目の当たりにして、徐々に態度が軟化。商店の中からは、着替え場所を探して苦労しているコスプレイヤーたちにスペースを提供する店も現れた。
さらに地元では、漫画やアニメの版元に働きかけてイベントの企画やグッズを製作。その仕掛けや取り組みがメディアに載り、SNSで発信され、インバウンドブームの流れに乗って海外からの訪問客も増加した。