「女性の活躍」が声高に叫ばれて久しい。しかし、「せっかく女性を登用しても管理職になりたがらない」と、こぼす経営者が少なくない。
そうした女性の多くは「意欲が低い」と見られてしまいがちだが、じつは女性の管理職志向は男性より低いが、「仕事を通じた『成長意欲』はむしろ男性より高い」という調査がまとまった。管理職になりたがらないと言っても、仕事に対するモチベーションが低いとは限らないのだ。
では、どうしたら意欲的な女性に本当に活躍できる場を与えることができるだろうか――。
仕事の「成長意欲」が強い20代・30代女性
この報告をまとめたのはパーソル総合研究所の砂川和泉(いずみ)研究員。2019年1月25日、「『管理職になりたがらない女性』を『意欲が低い女性』と同一視してはいけない ~時間や場所に縛られない職場が未来の管理職をつくる~」というレポートを発表した。
女性の「管理職志向」や「昇進意欲」が男性より低いことは、さまざまなデータで示されている。パーソル総合研究所が2018年2月に実施した「働く1万人の就業・成長定点調査 2018」の結果でも、管理職になりたい人の割合は、全年代で女性は男性を下回った(正社員対象の調査)。たとえば、20代では男性が44.7%に対して女性は18.7%、30代では男性が38.3%に対して女性は17.5%...... と、すべての年代で半分以下だった=図表1参照。
ところが、仕事に対する「成長意欲」について調べると、逆の結果が出た。これは、「あなたにとって『働くことを通じた成長』は、どのくらい重要か」との質問に、「とても重要だ」から「まったく重要ではない」の7つの度合いで回答するもの。「管理職志向」は年代とともに下がるが、成長に関しては、年代にかかわらず7割以上の人が重視しており、60代が一番高い。
また、すべての年代で女性は男性よりも成長を重視している人の割合が高かった。特に20代・30代が顕著で、20代では男性が74.0%に対し女性は83.2%、30代では男性が76.6%に対し女性は85.3%と、9ポイント近く上回っている=図表2参照。「女性は意欲が低い」というのは、少なくとも「成長意欲」の観点からは誤解であるといえる。
「成長意欲」が強くても管理職になりたがらないのは...
いったいなぜ女性のほうが「成長意欲」が高いのか。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた砂川さんはこう説明する。
「旧来の男性中心の日本の職場では、男性であれば会社からさまざまな成長の機会を与えられます。ところが、女性は自分で成長を強く意識しないと『男性社会』のなかでやっていけないという側面があるものと思われます。また、女性の就労率が男性よりも低いなかで、成長を重視しない女性はすでに労働市場を去っている可能性もあります」
つまり、成長意欲の高い女性が、オトコ社会の職場に頑張って残っているというわけだ。
ところで、成長意欲の高い女性が管理職になりたがるかというと、そうではなかった。成長意欲のある男性の46.1%が管理職になりたいと答え、その割合は管理職になりたくない人 (33.6%)を上回るのに対し、成長意欲のある女性で管理職になりたい人はわずか20.0%にすぎず、64.4%が管理職になりたくないと答えた。
その一方で、男性では成長意欲がないにも関わらず管理職になりたい人が2割近く(19.8%)もいた。
では、なぜ女性は成長意欲が高いのに管理職になりたがらないのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2015年に発表した「女性管理職の育成・登用に関する調査」によると、女性は「管理職は家庭との両立が困難」と考えて管理職になりたくないと考える割合が男性に比べて高く、「管理職の多忙なイメージ」が子育てなどとの両立を難しいと認識させ、女性の昇進意欲を低下させていると指摘している。
「子育てとの両立が困難」の定説はウソだった?
こうした「管理職=子育て困難説」はかなり広がっているが、本当だろうか。パーソル総合研究所の調査では、「定説」をひっくり返す意外な結果が出た。
砂川さんが説明する。
「子育てが両立困難の主な要因であれば、子どもがいる女性は子どもがいない女性よりも管理職志向が低くなると考えられます。しかし、今回の調査データで、結婚しているかいないか、子どもがいるかいないか、家庭の状況別に管理職志向を聞くと、『未婚・子なし』の女性のほうが管理職志向が低く、『既婚・子あり』の女性のほうが管理職志向が高い傾向が見られたのです」
具体的には、「未婚・子なし」女性の「管理職志向」が13.5%、「既婚・子なし」女性が19.4%だったのに対し、「既婚・子あり」女性は25.0%と、一番高かったのだ=図表3参照。子育てを抱え、仕事との両立が一番難しいはずの女性になぜ、管理職になりたがる人が多いのだろうか。
砂川さんはこう語る。
「日本では、いまだなお第1子出産を機に働く女性の約半数が離職しています。正社員の女性でも3分の1が辞めている状態です。そんななかで、もともと管理職志向が高かった女性が、出産後も正社員として働き続けていることも考えられます。いずれにせよ、未婚や子どものいない女性でも管理職志向が低いわけですから、しばしば言われる『家庭との両立困難』という理由は、深掘りする必要があります。管理職になりたくない女性にとって、それは表面的な断り文句であり、じつのところは長時間拘束されて過大な責任を負担する旧来型の管理職のあり方に疑問を持っているのかもしれません」
働き方を柔軟にすると女性管理職志向が高まる
では、何が女性たちの管理職志向を妨げているのだろうか。
調査では、働き方改革の問題が浮かび上がってきた。「副業・兼業」や「クリエイティブ・オフィス」(=創造性を重視した執務スペース)、「テレワーク」(=在宅・オフィス外勤務)といった、場所や時間にとらわれない先進的な働き方改革が推進されている職場では、女性の管理職志向が高いことがわかった。
たとえば、「副業・兼業制度」が導入されている職場では、管理職志向が高い女性は51.5%、また「クリエイティブ・オフィス」では47.5%、「テレワーク」では44.8%と、20代、30代女性全体の平均20.0%に比べて、2倍以上も高い水準だった。特に「テレワーク」の促進は、場所の拘束からの解放となり、従来も子育て中の女性には特権として認める企業は多かった。この制度が広がり、他のメンバーもテレワークで働くようになれば、女性が管理職になっても気兼ねなく制度を利用できる環境が整う。
砂川さんは、こう強調する。
「女性が『管理職になりたがらない』からといって『意欲が低い』わけではありません。『成長意欲』という仕事に対する前向きな姿勢があっても、旧来の管理職のあり方ではやっていけないと感じていることが問題なのです。画一的な職場環境では、体力やライフステージなどのハンディキャップを抱える女性がパフォーマンスを発揮していくことは困難だと思います。『副業・兼業』『クリエイティブ・オフィス』『テレワーク』など働き方が多様化することで、さまざまな価値観やバックグラウンドをもつ人材が活躍できる土壌ができていくと思われます。これは、女性に限らず、男性も同じです。さまざまな人材のパフォーマンスを最大限に引き出す視点が大切です」
(福田和郎)