アイドルグループの嵐が来年(2020年)いっぱいで活動を無期限休止するという話題が、世間をにぎわせています。
別にアイドルグループの活動に大きな関心があるわけではないのですが、SMAPの解散、TOKIOの不祥事によるメンバーの引退、複数のグループからのメンバーの独立やら脱退となにかと平穏ならざる出来事が続いている中での今回の件だけに、私なりにマネジメントの観点から考えてみることにしました。
男性アイドルグループの「消費期限」
私が気になったことは、2点あります。ひとつは、男性アイドルグループというものは、言ってみればジャニーズ事務所が作り出したオリジナル商品であり、その商品戦略がジャニーズ事務所の経営戦略として、きちんと考えられていたか、ということ。
いま一つは、商品でありながら稼ぐ役割を担ったスタッフでもあったアイドルたちをしっかりフォローできていたのか、という点です。
まず1点目。ジャニーズ事務所は古くは1960年代に最初のアイドルグループ、ジャニーズを世に送り出してから、半世紀以上にわたってアイドルビジネスを展開しているわけですが、これまで本当に商品としての戦術ではなく、戦略をちゃんと考えてきたのだろうか、という点にいささか疑問を抱きました。
私が抱いているイメージは、売れるなら徹底的に売っていこう。売れるうちはどんどん売っていこう、という、ある種の行き当たりばったり的なやり方になっていなかっただろうか、ということです。
商品には、必ずライフサイクルというものがあって、ひとつの商品を未来永劫売り続けるというのは、基本的にはあり得ない話です。
要するに、売り出しからグングン売り上げを伸ばしていきつつ、途中で何度かのマイナーチェンジをして、その商品寿命を延ばしたとしても、いずれは下火になってくるという事実があります。
それを前提としてタイミングを見計らいながらモデルチェンジや新たな商品の市場への投入を検討していく、そんな長期の商品戦略が必要とされるわけなのです。
しかし、ジャニーズ事務所はアイドルグループを次々と売り出しはしたものの、商品としてのアイドルグループのライフサイクルを考えることなく、どうにもただただ売り続けてきたという印象が拭えません。
そして、この1~2年に次々と噴出するジャニーズ事務所の所属グループの解散、メンバーの脱退や不祥事。そして今回の嵐の無期限休業は、そのツケがここに来て一気に噴出したのではないか、と個人的には感じるところです。
年齢を重ねて価値観や考え方が変わるのは当然
2点目。一連のジャニーズ所属グループをめぐる相次ぐいざこざにおいて、商品の長期戦略の欠如以上に問題が大きいのは、商品でありながら生身の人間であるアイドルたちのフォローの欠如のということではないか、と考えています。
すなわち、商品でありながら企業の稼ぎ手でもあるという特異な二面性を持ち合わせているアイドルグループですが、果たしてアイドルグループとしての同じ日々の繰り返しを長年続けさせることに、一個の人間として耐えうる限界があるのではないか、という疑問が当然頭をもたげるわけです。
年齢が上がってくれば、それに伴う経験や知識の積み重ねが個々人の価値観や考え方にさまざまな変化を及ぼすでしょうし、自己実現意欲についても年齢とともにその形を変えたとしても、なんら不思議のないところではないでしょうか。
それを、一部の単独活動はありながらも、基本的に固定のグループ活動をベースとした枠組みの中で長年日々繰り返しの活動を続けさせることは、メンバー一人ひとりのストレスを知らず知らずのうちに増やしてしまい、それは結果的にあるいはモチベーションを下げ、あるいはグループを抜けたい気持ちにさせ、あるいは今とはまったく異なった世界に飛び出したくもさせるのではないでしょうか。
そして、それは最悪の場合、ストレスのあまり素行に問題が生じ不祥事を起こすということにもつながりかねません。それらがさまざまな形で連鎖的に表面化したのが、一連のジャニーズ事務所絡みのいざこざの正体であるように思います。
嵐が語りかけてくれたこと
このような、今回の嵐の活動無期限停止宣言を期に気づかされた、ジャニーズ事務所のアイドルグループ・ビジネスの陰に見え隠れする「2つの過ち」は、じつは一般企業にもありがちな経営の落とし穴であると感じています。
ひとつは、企業経営でどんなヒット製品、商品を作り出したとしても、それは未来永劫続くものではなく、長期的な製品戦略、商品戦略なくして企業の永続的な発展はない、ということ。
そしてもう一つ、どんなに業績が伸びていようとも、働く人々の気持ちや感情を考えることなく進めていくなら、必ずどこかしらから破たんが生じてくるということ。それを放置すれば、致命傷にもなりかねないということです。
どんな製品、商品も個々に寿命があるのだということ、どんなに業績が伸びていようとも携わる人々への配慮を忘れることは、目の前の繁栄と隣り合わせに崩壊が存在しているということを忘れてはならない――。
商品として長年にわたり働き詰めの末、ある種の反乱を起こしたトップアイドルグループのメンバーたちは、我々に語りかけているように思えます。(大関暁夫)