「どん底」から復活した紳士服の「SADA」 小売りへ「転身」した社長の計算(気になる本の散歩道)

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   年を追うごとにその規模が縮小し、厳しさが増しているビジネススーツ市場。新たな需要の掘り起こす事業として注目されているのが「オーダースーツ」だ。

   大手小売りやメーカーばかりか、著名ブランドの参入もあり、市場は華やかさを増している。なかでも注目されているのは、その技術力とコストパフォーマンスをセールスポイントに業績を伸ばしている「オーダースーツSADA」(株式会社佐田、東京都千代田区)。「スーツで日本を元気にする」をミッションにしているという佐田展隆(さだ・のぶたか)社長に聞いた。

  • 「スーツで日本を元気にする」と佐田展隆社長は話す。
    「スーツで日本を元気にする」と佐田展隆社長は話す。
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「店長候補の養成が間に合わない」

   「オーダースーツSADA」は「ショールーム」と呼ぶ店舗の出店を全国で進めており、2017年、18年には6店舗ずつ新規に設け、北海道から九州まで49店舗のネットワークを持つ。今年も7か所でショールームのオープンを計画している。

   製品の評判はよく年々成長を続けており、大手流通系の商業施設からの出店要請も相次いでいるという。「店長候補の養成が間に合わない」ほどなのだ。

   オーダースーツSADAを運営する株式会社佐田は、大正年間に創業した繊維関係の商家が発祥。紳士服地の卸売りに長く携わり、その後、注文紳士服の縫製・卸売りに転じ、商店街の紳士服店や仕立店、大規模衣料品店や総合スーパー、百貨店を相手にビジネスを行っていた。

   ところが、バブル崩壊後に大口取引先の倒産などで佐田の経営も反転。当時、アパレル関連の大手企業に勤務していた佐田社長が、再建のため家業に加わるよう要請され、2003年に入社した。

   立て直しに着手すると、それまでのスーツの製造と卸売りから、小売りを兼業するSPA(製造小売り)に少しずつ転換。すると、やがて軌道に乗り黒字化を果たした。

   ところが、利益が出たことで塩漬けになっていた莫大な有利子負債の問題が再燃。2007年、佐田社長は不本意ながら、再生ファンドに会社を売却した。

「上がり寸」採り着心地に満足

   佐田社長が「オーダースーツ」に本格的に取り組むのは、2011年の東日本大震災後のこと。再生ファンドに会社を売却したあと、かつての同僚が会社の経営を担っていたが、08年のリーマン・ショックと震災が影響して、屋台骨がまた揺らぐ。そこで、経営の舵取りを要請されたのだった。

   「震災があった11年7月期の売り上げは17億円。わたしが会社を辞めた直後の08年7月期の売り上げは24億円だから約30%減。経営状態は下降線だった」と、振り返る。

   2度目の社長就任時、売り上げで大きな割合を占めていたのは、総合スーパーなどへの卸売りとアパレルメーカー相手のOEM(相手先ブランド名での製造)。そこで、佐田社長は自前の努力で成長のチャンスを拡大できる小売業への転換を決意したという。

「SADA」ではオーダースーツが初回限定で破格の1万9800円で購入できる
「SADA」ではオーダースーツが初回限定で破格の1万9800円で購入できる

   「オーダースーツSADA」の仕立ては、かつての手縫いに匹敵するほどの品質で、初回限定ではあるが、破格の1万9800円で購入できる。それは、コンピューター支援設計(CAD)と自動裁断システム(CAM)を駆使した「マシンメイド」によって実現したコストパフォーマンスだ。

   お客を迎えるショールームでは、ジャケットとパンツに分けて計15~20か所を採寸。「それらはヌード寸といいますが、これだけではオーダースーツはできません。SADAでは、個人差がある『ゆとり』の程度や場所のための『上がり寸』を採って、着心地に満足いくようにしています」。

   さらに佐田は早いうちから中国に投資。最新鋭の設備を備え、かつ従業員の研修が行き届いた工場を北京に持っている。この工場で標準的な製品を安価なコストで製造でき、高級仕立てなど特別仕様のものは宮城県の工場で受け持つなどの棲み分けにより、効率化している。

   SADAのオーダースーツは、口コミやインターネットで評判が広がり、売り上げを順調に伸ばした。18年7月期決算のそれは34億円で、11年7月期の2倍に増えた。

AOKIや通販サイトが参入、オーダースーツ市場に活気

   佐田社長によると、SADAにとって追い風になったのは、同業他社などが続々とオーダースーツへ参入したことだという。総務省の家計調査によると、1991年には2万5000円を超えていた1世帯あたりのスーツ関連の年間支出額は2016年には6959円にまで縮小。ビジネスシーンのカジュアル化などによるとみられるが、業界各社は事業の多角化を図る一方、好調なSADAを見てか、オーダースーツに取り組みはじめた。

   紳士服最大手の「AOKI」は16年に東京・銀座本店でオーダースーツのショップを試験導入。そこでノウハウを培い、好感触を得て18年10月にオーダースーツのサービスを全570店舗に拡大することを発表した。

   佐田社長はAOKIのこの動きが自社のオーダースーツにも好影響があったとみている。

   オーダースーツのうねりの高まりはこれにとどまらず18年7月には、人気ファッション通販サイトの運営会社が独自ブランドで、鳴り物入りでサービスをスタート。ところがこちらはネットなどでの評価がいいとはいえず、佐田社長によると、「SADA」がその受け皿の役割を果たしたと思われるような客足の伸びがあった。

   「オーダースーツは、2年ほど前からブーム期になっていると思う。SADAの仕立ては、ほかにはできないもの。そのことをアピールして紳士服業界大手を追いあげたいと」と、佐田社長はさらなる成長を期している。

   2018年末、佐田社長は株式会社佐田での社長業を中心に振り返った「迷ったら茨の道を行け」(ダイヤモンド社)を、初の自著として上梓した。

   小説やテレビドラマで描かれたようなシーンがしばしば登場するが、現実にあった中小企業の再生劇には、まさに「事実は小説より奇なり」を実感できる一冊。

「迷ったら茨の道を行け ~ 紳士服業界に旋風を巻き起こすオーダースーツSADAの挑戦」
佐田展隆 著
ダイヤモンド社
1500円(税別)

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