秘儀「弱み見せ指示」!
「ある時に切羽詰って、社長であるこちらが恥も外聞もなく『私の手には負えないから助けてくれ』と部下にヘルプを投げたら、部下は驚くほどヤル気になって、指示した仕事に取り組んでくれたのです。それまでアレやれ、コレやれとけしかけても、直接自分の業務範囲じゃないことには、まず前向きに取り組まなかった社員がです。
それ以来、『これの分野は僕にはよくわからないが、君ならできるだろう』と言った前フリで、他の社員にも私の弱みを見せるような仕事の振り方をすると、何事でもおもしろいぐらい積極的に取り組んでくれました。じつはコレ、当初は過去の自己体験にヒントを得て仕掛けたものなのですが......」
そんな話の流れで、この社長から出されたその過去の体験というのが、冒頭の子供時代からの成長過程で、両親からの頼まれごとを受けた時のやりとりだったのです。
社長はそんな自己の子供時代の経験を踏まえて、まずは幹部社員に「弱み見せ指示」で積極性ややりがいを持たせる試みをして、それが定着したら次に幹部社員から部下への指示命令にも同じような「弱み見せ」的なやり方ができるような教育を施したのだと。
そんなこんなで、気がつけば1~2年で社内はグッと明るくなって風通しがよくなり、業務効率は格段に上がる、周囲の経営者がうらやむほど定着率も向上した。そんなお話でした。
この話はその後しばらく気になっていたのですが、そんな折も折、米国のリーダーシップ論の研究家であるフランク・カルマン氏が、このエピソードを裏付けるような持論を経営雑誌に書いているという話に偶然出くわしました。
カルマン氏の持論によれば、
「脆弱さ、弱さはリーダーシップの重要なスキルのひとつである」
と。すなわち、
「自信に満ち溢れて振舞うことは当然リーダーに欠かせない行動であるが、時に自分の弱さを見せて正直に心を開いて事実を見せることは、それと同様に重要なことである」
と言うわけです。