「AI白書 2019」(KADOKAWA)独立行政法人情報処理推進機構 AI白書編集委員会編
近年の深層学習(ディープラーニング)研究の成功で、人工知能(AI)の進化のステージが10年ほど前倒しとなり開発がさらに加速している。
AIはいまでは囲碁のプロ棋士に勝つほど学習上手となり、機械翻訳ではそのまま文書に使えるほどに精度が向上。スマートフォン、スマートスピーカーなしでは生活ができないという人たちが現れているばかりか、クルマの自動運転もすでに実現レベルに達しているという。
「技術大国」とされる日本だけに、AIでも国際的には世界をリードしている立場にいるに違いないと思いきや、1、2位を走る米国や中国に、はなはだしい後れをとっているのが実情であることもわかった。
日本は「周回遅れどころか、何周回も遅れ」
2017年版以来1年半ぶりに刊行された『AI白書 2019』は、AIの導入企業や実用化事例を数多く紹介して、17年版発行後からの短い間に幅広い領域でAI技術の応用が加速度的に進んだことを示した。
その一方で、世界的なAIの研究・実用化では米国と中国が先行し、日本が遅れていることを合わせて指摘している。
企業再生のスペシャリストとして知られる経営コンサルタント、冨山和彦氏は、白書編集委員会の中島秀之委員長(札幌市立大学学長)との本書の巻頭対談で「(日本は米中から)周回遅れどころか、何周回も遅れている」と指摘。その原因を、二本の社会・産業構造に求め、わが国の目指すべき「AI経営」についてガイダンスを提示する。
スタートアップ企業やベンチャーキャピタルなどの動向を調べている調査会社、米CBインサイツが2017年12月に発表したAI分野で活躍する世界のスタートアップ企業100社のリストによると、国別では米国が76社と最も多く、2番目が中国の8社で、日本からは2社が選ばれていた。
世界的にみて今後の社会・経済の競争力強化の支えとなるのはAIとみられるが、日本は、企業ではAIへの関心が高いものの、理解不足もあって利用率は3%にすぎないという。
こうした現状を憂いながら、白書は「先行する海外企業の技術やサー ビスを積極的に利用しながら、日本の強みを発揮できる分野で社会実装を加速させることが不可欠」と提言。「少子高齢化が進む日本では、AIは労働力不足への対応、労働生 産性の向上、高齢者のサポートなどの課題解決に向けた切り札となり得る」と記している。