中国の街角では共産党や政府が作ったいろんなスローガンをよく見かけるが、2019年の正月、なかでも圧倒的に目立っているのが「社会主義核心価値観」というものだ。
鉄道の駅、バス停から銀行、百貨店、スーパー、映画館、それに大学はじめ学校、道路わきの壁など、人が通り集まるところには、まさに所構わず登場する。4~5年前から、習近平氏の権力基盤が固まるにつれて増えてきたみたいである。
12の言葉からなる価値観
「社会主義核心価値観」は、写真にあるように「富強、民主、文明、和諧、自由、平等、公正、法治、愛国、敬業、誠信、友善」の12の言葉からなっている。
日本人にはやや分かりにくい言葉もあるので、注釈を加えると、文明は「礼儀正しい」、和諧は「調和が取れている」、敬業は「仕事や学業に励む」、誠信は「誠実である」、友善は「仲がいい」といったところだろうか。
でも、12の言葉は僕たち日本人にもほとんど違和感がないはずだ。なかでも「民主、自由、平等、公正」なんかは文句のつけようがない。「愛国、敬業、誠信、友善」は「おせっかいだ」とも言えるが、目くじらを立てるほどでもない。
なのに、それがなぜ「社会主義核心価値観」なのだろう?
ふとすると、資本主義国の日本などには、民主、自由、平等、公正・・・といった高尚な価値観は存在しないとでも、中国の為政者たちは主張したいのだろうか。つまり、そういったものは社会主義国の中国にしかない、人民たちよ、共産党を信じるように、と言っているみたいである。
国の現実にフタをする
そう勘ぐりたくもなる。「社会主義核心価値観」は失礼ながら、僕から見て、民主、自由、平等、公正...... の実現には、まだ距離のあるこの国の現実にふたをして、国民を「洗脳」しようとするものではないのだろうか。
ああ、イヤだねえ、一党独裁の国っていうのは...... と言ったら、日本のことにはかなり詳しい中国人の友人から「洗脳されているのは、むしろ日本人のほうでしょ?」と反撃された。
彼によると、日本の報道を見聞きしていると、自由民主党並びに安倍晋三政権の暴走は目に余るものがある。国会を無視している。独裁政治みたいである。それなのに、国民はそれほど怒っているようには思えない。安倍政権のお先棒を担いでいるようなメディアもある。だから、安倍政権は国民を恐れていない、むしろ、一党独裁の習政権のほうが国民を恐れている。中国人は共産党に「洗脳」されているなんて、日本人には言われたくないとのことだった。
中国人の友人の言い方が辛辣だったこともあって、ケンカになりそうだったが、「我々両国の国民はお互い、為政者に洗脳されないように気を付けようね」ということで、話をまとめたことだった。(岩城元)