佃航平社長の「精神主義」は旧日本軍と同じだ
窪田氏によると、(2)の「長時間労働を強いる職場の同調圧力」について「最も象徴的なシーンは、定時で帰る社員(軽部真樹男=徳重聡)に他の社員たちが文句を言う、というくだり」だという。
「人をイラっとさせるような特異なキャラクターと、『定時に帰る』という事実だけで、周囲から腫れ物のように扱われていた。このことからも 佃製作所の職場には、『みんなが残業しているのに帰るのは許せない』という『同調圧力』がまん延していることがうかがえよう」
窪田氏が、「下町ロケット」の最もマズいところは、(3)の「とにかく気合いで乗り切る精神至上主義」と強調する。
「佃航平社長はとにかくアツい。スポ根的精神論へと傾倒する。それを如実に示すのが、以下のような名言の数々だ。『正義は我にありだ』『町工場が夢を見て何が悪いんだ』『どうか同じ夢を見てくれませんか』。ブラック経営者やパワハラ上司の背中を押す『根拠なき精神論』をこれでもいいかというくらい美化してしまっている」
そして、佃製作所の体質は、旧日本軍に通じると批判する。
「現実の中小企業で、佃航平のような『根拠なき精神論』を振りかざしてもロクなことにはならない。経営者にとって最も必要な論理的思考、客観的な状況判断を阻んでしまう。朝礼でビシッと整列した社員の前で佃航平が熱い演説をぶちまけると、みな集団催眠にかかったように『やるぞ!』『残業だ!』と火がつく。これは、旧日本軍で無謀な作戦に投入される兵士たちを前に、上官が精神論・根性論を振りかざすと、『あの世で会おう』『立派に散るぞ』と高揚する構図と丸かぶりだ」