グローバルの中のガラパゴス日本 道理通らねば前進なし(鷲尾香一)

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   特別背任容疑などで逮捕、勾留されている日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者が2019年1月8日午前、東京地裁で開かれた勾留理由開示手続きに出廷し、自ら「無罪」を強く訴えた。

   勾留期間は2018年11月19日に最初の逮捕以降、50日を超えている。

  • 司法取引がきっかけだった……
    司法取引がきっかけだった……
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ゴーン容疑者が自ら罪を認めることはない

   ゴーン容疑者は当初、2010(平成22)~14(平成26)年度の報酬を計約48億円過少に有価証券報告書に記載したとして金融商品取引法違反罪で起訴され、その後の12月10日には直近3年分で約42億円を過少に記載したとして再逮捕された。

   さらに、12月21日には自身の資産管理会社と新生銀行との間で契約した通貨のデリバティブ(金融派生商品)取引で生じた約18億5000万円の評価損を、日産自動車に付け替えたなどの、特別背任容疑で再逮捕されている。

   興味深いのは、50日を超える勾留と東京地検特捜部による厳しい取り調べに対して、ゴーン容疑者が無罪を主張する姿勢を崩さずにいることだ。

「相当に厳しい取り調べを受けているはずだが、一切の容疑を否定している点は驚愕だ」

と、東京地検特捜部の取り調べを受けた経験のある企業幹部は言う。

   ある外資系企業の幹部は、「おそらく、ゴーン容疑者は心底、罪を犯したとは思っていないのだろう」と推測する。確かに、日本企業のトップとしてはコーン容疑者の報酬や個人資産運用額は破格のものだが、「むしろ、欧米の一流企業と比較すれば、驚くほどの金額ではない」と、その幹部はいう。

   また、ある司法関係者は、「本人は裁判になっても勝てるだけの証拠があると言っているようだ。ゴーン容疑者が罪を認めることはないだろう」と見ている。

東京地検特捜部の「落ち度」

   一方で、東京地検特捜部の捜査にもいくつかの落ち度があるように思える。そもそも「入口」の金融商品取引法(金商法)違反は、日産のトップが逮捕される容疑としてはあまりにも筋違いだ。

   そのうえ、勾留期限が来ると今度は直近3年分について同じ容疑で再逮捕している。さらに、2018年12月20日に東京地裁が勾留延長の却下と準抗告を棄却すると、東京地検特捜部は翌21日にゴーン容疑者を特別背任容疑で逮捕している。

   前出の司法関係者はこの点に、「特別背任容疑で逮捕できたのであれば、なぜ最初は金商法違反で逮捕したのか。逮捕そのものが無理筋だったのではないか」との疑問がある。半面、「特別背任容疑で逮捕する方針があったうえで、金商法違反での逮捕というプロセスを辿っただけ」との見方もある。

   ただ、報酬についての有価証券報告書の過少記載について、1つの期間ではなく、わざわざ2つの期間に分けて逮捕、再逮捕をしている点や、最初から特別背任容疑で逮捕をせず、金商法違反容疑での勾留期限が来たことで、特別背任容疑で逮捕した点については、違和感を持たざるを得ない。

特捜部長が導入を進めた「司法取引」

   さらに違和感を覚えるのは、今回の事件が司法取引によって発覚したことだ。司法取引は、他人の犯罪に対して協力する見返りとして、自身の刑事処分を回避したり、刑を軽くしてもらったりする制度。2018年6月から日本でも導入されたが、ゴーン容疑者の逮捕を指揮した森本宏・東京地検特捜部長が、法務省刑事局時代に日本での導入を進めた経緯がある。

   日本の司法取引は、2018年7月に「三菱日立パワーシステムズ」がタイ公務員に対する贈賄事件で行われたのが最初だが、この時には同社の元取締役ら3人を在宅起訴し、司法取引によって同社は起訴が見送られた。

   この事件は、「司法取引の第1号としては、あまりにもショボい事件」(検察関係者)であり、「検察のエース」「検事総長候補の筆頭」と言われ、日本での司法取引の導入とその運用の最先端にいる森本特捜部長の評価を高めるものではなかった。

   それもあってか、検察関係者の中からもゴーン容疑者の逮捕は、「司法取引で大きな成果を上げるため、無理筋に手を付けた」との声が聞かれるほどだ。

   ゴーン容疑者の事件では、サウジアラビアの実業家であるハリド・ジュファリ氏が関連していると言われているが、同氏に検察側が事情聴取や取り調べを行わずに、ゴーン容疑者を逮捕していることも明らかになっている。

   たとえば、日本の中小企業でも経営者が会社の動産・不動産を、私的に使用しているケースはよくある。ゴーン容疑者を罰する以上はこうしたケースも摘発していかないと、東京地検特捜部がその功名のために、ゴーン容疑者を狙いうちにしたと見られても致し方ない面もあるだろう。

   今回の事件の真相は、今後の裁判によって徐々に明らかになっていくのだろうが、日本と海外の企業倫理、外国人経営者のあり方などを考えるうえで、ゴーン容疑者の事件は今後に一石を投じるものとなるはずだ。(鷲尾香一)

※(編集部注)カルロス・ゴーン容疑者は2019年1月11日、東京地検特捜部から特別背任の罪で追起訴された。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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