特捜部長が導入を進めた「司法取引」
さらに違和感を覚えるのは、今回の事件が司法取引によって発覚したことだ。司法取引は、他人の犯罪に対して協力する見返りとして、自身の刑事処分を回避したり、刑を軽くしてもらったりする制度。2018年6月から日本でも導入されたが、ゴーン容疑者の逮捕を指揮した森本宏・東京地検特捜部長が、法務省刑事局時代に日本での導入を進めた経緯がある。
日本の司法取引は、2018年7月に「三菱日立パワーシステムズ」がタイ公務員に対する贈賄事件で行われたのが最初だが、この時には同社の元取締役ら3人を在宅起訴し、司法取引によって同社は起訴が見送られた。
この事件は、「司法取引の第1号としては、あまりにもショボい事件」(検察関係者)であり、「検察のエース」「検事総長候補の筆頭」と言われ、日本での司法取引の導入とその運用の最先端にいる森本特捜部長の評価を高めるものではなかった。
それもあってか、検察関係者の中からもゴーン容疑者の逮捕は、「司法取引で大きな成果を上げるため、無理筋に手を付けた」との声が聞かれるほどだ。
ゴーン容疑者の事件では、サウジアラビアの実業家であるハリド・ジュファリ氏が関連していると言われているが、同氏に検察側が事情聴取や取り調べを行わずに、ゴーン容疑者を逮捕していることも明らかになっている。
たとえば、日本の中小企業でも経営者が会社の動産・不動産を、私的に使用しているケースはよくある。ゴーン容疑者を罰する以上はこうしたケースも摘発していかないと、東京地検特捜部がその功名のために、ゴーン容疑者を狙いうちにしたと見られても致し方ない面もあるだろう。
今回の事件の真相は、今後の裁判によって徐々に明らかになっていくのだろうが、日本と海外の企業倫理、外国人経営者のあり方などを考えるうえで、ゴーン容疑者の事件は今後に一石を投じるものとなるはずだ。(鷲尾香一)
※(編集部注)カルロス・ゴーン容疑者は2019年1月11日、東京地検特捜部から特別背任の罪で追起訴された。