日経と読売「企業の内部留保450兆円を大放出せよ」
毎日新聞(1月1日付)は、「カルロス・ゴーン事件」に代表される社会の不平等の広がりが経済の停滞を生むと指摘している。
「社内格差の理不尽さを象徴する出来事が米国で報じられた。ウォルト・ディズニー・カンパニーで、1万6400人もの従業員が、連邦法で定められた最低賃金を下回る収入しか得ていなかった。総額約4億2500万円を従業員に返すことで決着したが、同社のCEOロバート・アイガー氏は1人で、それもわずか1か月でこの金額を稼ぐ。世の中の仕組みが、富める者をますます豊かにし、労働者の努力は正当に報われないようになっている。不満が現状打破を唱える過激な主張に傾倒していった。
米国ではトランプ氏が大統領となり、欧州では極右政党が存在感を強めた。だが皮肉なことに、こうした反動が向かう先は、中間層や低所得者層の救済ではなく、孤立主義を通じた彼らの一段の困窮である。貿易や国外からの投資が細り、物価が上昇し、経済が活力を失って失業も増える。先進各国で社会の不安定化が進み、一段と経済が縮小する悪循環に陥る恐れがある」
さて、それでは経済の活性化を図るにはどうしたらよいか。新聞各紙ともそれぞれ具体策を提案している。日本経済新聞(1月1日付)がまず注目したのは、過去最高額450兆円に達した企業の内部留保(貯金)だ。
幸い日本企業の内部留保は潤沢だ。超高齢化社会で必要とされる医療・介護の技術や、環境技術など世界に貢献できる分野は多々ある。人手不足は生産性向上のチャンスともいえる。電気自動車の欠点を埋める次世代蓄電池の開発などでも世界をリードしてほしい。日本には他の先進国にない強みがある。中間層が分厚く、米欧でみられる世論の分断がさほどでもないことだ。日本の社会的、政治的な安定は突出した存在だ。
「9割を超える就職内定率が象徴する雇用の安定が下支えする。企業の新陳代謝や労働市場の流動性を高めつつ、分配政策などを活用し、この安定はできるだけ維持すべきだ。資本主義や民主主義の疲弊が海外で目立つが、日本はこのふたつの価値を守り、米中などに働きかける責任がある。それが国際協調の復権をもたらし、日本の活路をひらくことにつながる」
つまり、分厚く、しかも分断していない中間層に日本経済の活路を見出すため、企業は積極的に巨額の内部留保を活用せよと呼びかけた。読売新聞(1月3日付)も内部留保を放出して、賃上げと非正規雇用の解消に努める責任が企業にあると強く主張する。
「幸い足元の企業業績は総じて好調で、利益は最高水準にある。企業の内部留保は過去最高だ。業績の良い企業は、従業員に利益を還元してもらいたい。賃上げの動きを、労働者の7割が働く中小企業に広げることも大切だ。同時に、非正規雇用の労働者をいかに正社員に登用していくかが課題だ。非正規の賃金は、30歳代前半で正社員の約75%の水準に、50歳代前半では半分程度にとどまる。これでは安心して働けない。企業には非正規雇用を少しでも減らし、正規雇用を増やす努力が求められる」