自分の頭で考える飛行機型に
著者が株式投資を始めたころに比べれば、その環境を大いに進化を遂げている。パソコンを使って自宅から、あるいはスマートフォンを操作して出先から、いつでも、どこでも売買できるなど、投資のすそ野は広がっている。
だが、著者によれば、そうした文明の進化も、日本の伝統文化がじゃまをしてうまく利用されていないという。
「お金のことをいうのは卑しい――。これは、大名に仕える侍の時代からの偏見だ」。著者の週刊誌のインタビューを読んだ知人からは「なんであんな恥ずかしいことをペラペラしゃべったりするんだ」としかられ、かつての教え子は「記事の内容に驚きました」とショックを受けた表情が明らかだった。
「大名に仕える侍」は、いわばお家任せのグライダー型の典型。俸給制の役人であり、それは要するに現代のサラリーマン。サラリーマンは定年退職まで会社に引っ張ってもらえるのでグライダーでもOKだが、高齢化が進む現代では「定年後はそうはいかない」と、95歳の著者が言うのだ。
「自分の頭で考える飛行機型にならなくてはいけない」
不確定要素には「財産三分法」で
人生100年時代を迎えて長くなった後半生の「生きがい」としても、投資は有効な選択肢の一つ。現役時代の貯蓄や退職金、年金だのみの生活をしていては病気になりがち老化もすすむ。
医療や介護にお金がかかり「社会のお荷物のようになる」。個人の幸せのためばかりではない。「社会保障に養われるばかりの人がこれ以上増えたら、国の財政がたちゆかなくなるのは明らかだ。そこから目を逸らしてはいけない」
現代社会の事情や自らの経験を整理して、著者が掲げるのは投資のススメだ。
著者が薦めるのは「財産三分法」。持っている資産を3分割し、その一つ、つまり3分の1を株式に投じてもいいお金として割り当てる。そして、もう3分の1を生活のため、残りの3分の1を万が一のためにキープしておくのだ。こうすることで「最悪の事態は回避できる」としている。
本書ではまた、購入銘柄の選択理由、証券会社との付き合い方、新聞の証券面の読み方などについて経験を交え、著者ならではの流儀も披露。近年とくにもてはやされるようになった「優待」目当ての投資では刺激が得られず望ましくないと指摘して「配当」を目指す勝負を促す。
とはいえ、銘柄選びは「難しい」。著者は安定株にたどりつくまでの難所越えのヒントを示してはいるが、銘柄の推薦や有望業界の予想はあえて控えたという。「何年も何十年も読まれ続けるかもしれない本に、そんなことを書くわけにはいかない」。
「知の巨人」が、お金の話をまとめた一冊。