3年ぶりに大陸の中国で過ごした2019年の正月。観光地の桂林にある知人宅を年賀で訪れたが、新年早々、ちょっと不快な気分にさせられてしまった。
出来てまだ古くはないアパートだが、階段に沿った白い壁が、写真のように、まことに汚く見苦しかったからだ。カネ貸し、引っ越し、不動産売買から部屋の内装、家具やトイレ、下水道の修理など、いろんな業者たちのチラシ広告が白壁に所構わず貼られている。
どこか秘密めいた雰囲気が漂う貸金業者の広告
なかでも、貸金業者の広告が目立ち、「急ぎのカネが必要になったら、私たちにお任せください」「その日のうちにお貸しします」とある。
金利がいくらかは、不明である。日本の消費者金融業者は駅前の一等地に堂々と店舗を構えていたりするが、こちらではどこか秘密めいた雰囲気を漂わせている。
黒いマジックペンのようなもので電話番号が記され、そばに「開鎖(鍵を開けます)」と書かれたものもある。外出から自宅に戻ってきて、鍵がないのに気付いてあわてる人たちを相手にしたものだろう(もちろん「開鎖」は実際は中国の簡体字で書かれている)。
黒く書かれた電話番号と言えば、「辦証(証明書を作ります)」というのが字は達筆だし、電話番号も黒々として太く、たくましい感じだった(もちろん「辦証」も簡体字で)。筆で書いたようだ。写真の右下がそれである。
ところで「証明書」とは「本物」ではなく、卒業証書などの「偽物」という。この地の常識らしいが、たとえ偽物であっても、業者の力量をこの字と電話番号で表したかったのだろうか。
ご当地の人も不快 貼ったり、はがしたりの「いたちごっこ」
それはそれとして、この種の話は桂林のこのアパートに限ったことではない。これまで、中国各地のアパートなどの「壁」で同じようなものを見てきた。
翻って、日本の私たちの郵便受けには毎日のように、いろんな業者のチラシ広告が投げ込まれている。ほとんどは読まれることもなく、すぐにゴミ箱行きで、随分と無駄な話である。
そういえば、最近はすっかりお目にかかることがなくなったが、昭和の時代にはよく電信柱にペタペタと貼られたビラのような広告を見た。それでも、さすがに建物の中に無雑作に貼られた広告はあまりなかったように思う。
とはいえ、日本に比べると、当地のアパートの壁に貼られたチラシ広告は、薄汚いながらも、まだ広告の役目を果たしている。量の面からも、資源の負担が少ないかもしれない。
年賀で会った知人にそう話を向けてみると、「私たちもこうした広告は不快なんです。冗談を言わないでください」と怒られてしまった。住人たちのそうした意向も受けて、団地の掃除係の女性が黒く書かれた電話番号を消したり、チラシ広告をはがしたりしているそうだ。知人も手伝ったことがあるという。
だが、消しても、はがしても、すぐに新しいものが現れ、なかなか追いつかない。それに、チラシ広告は壁にノリでべったりと貼られているので、完全にははがしづらい。それが壁をよけいに薄汚くしている。また業者のほうも、簡単にははがされないよう、写真の右上にあるように、天井近くにチラシ広告を貼ったりする。「いたちごっこ」が続いている。(岩城元)