ひとたび株式投資を勉強しようとすれば、世の中にはたくさんの投資の指南本があふれている。しかし、問題はそうして紹介されている手法の中でどれが「自分に合った」テクニックなのか、ということだ。
9時から17時まで仕事をしているサラリーマンであれば、デイトレードは候補にならないだろう。「チャートを見るのは1日1回だけ」という条件で、歴史のある手法を取り上げてみた。
「タートル流投資」で学ぶ
1980年代の米国で、大物投資家二人がある賭けをした。一人は「投資は天性の才能が必要で、誰かに教えることはできない」と言い、もう一人は「誰かに投資を教えて、投資家を育てることは可能だ」と信じていた。
どちらが正しいか実証するため、全米から総勢20名の投資家の卵を集め、実際に二人が投資教育を行った。これが「タートルズ」と呼ばれる計画だ。詳しくは、「タートル流投資の魔術」(徳間書店刊)に書かれている。
テクニカル分析のインディケータとして、ドンチャン・チャネル(一定期間の高値と安値の推移を線で表したもの)とATR(Average True Range=ボラティリティを表す指標で、1日の平均的な値動きを表す。ATRが上昇するとボラティリティが高まると判断し、下降すると低くなっていると判断する)と呼ばれるものを使用している。以下は、その概要だ。
【新規買い】
過去60日(12週)ドンチャン・チャネルの高値更新で「買い」
【決済売り】
(1)購入価格から「ATRの2倍」の下落で「売り」
(2)過去20日(4週)ドンチャン・チャネルの安値更新で「売り」
ドンチャン・チャネルについては、新規買い、決済売りともに、過去50日のドンチャン・チャネルを用いてもよい(個人的にこちらのほうがオススメだ)。なお、ATRは日足チャートに対して適用する。
「タートル流投資の魔術」の取引方法は、過去のチャートを用いた検証が比較的簡単な投資手法だ。タートルズの手法を実践したい人は、現実の資金で運用する前に、あらかじめ取引すると決めた金融商品の過去の実績を確認したほうがいいだろう。
とくに連勝数と連敗数は最大でいくつか、といった要素のチェックは、実際の取引でストレスを感じないためにも役立つはずだ。
「タートル流投資の魔術」(徳間書店刊)には、投資対象はできればさまざまな商品に分散投資するべきだと書かれている。
過去チャートを検証した個人的な所感としては、エネルギーや商品先物の成績が良好だ。株価指数(日経平均株価など)や外国為替証拠金(FX)取引は、先進国市場よりも新興国市場のほうが、成績は安定する傾向がある。
個人投資家が「自分に勝つ」ための指南本活用術
タートルズの手法の実践者によれば、「投機家が少なく、未熟な市場のほうが、トレンドが発生しやすいため、あまり多くの人が取引していない市場のほうが望ましい」とのこと。2017年のビットコインの上昇相場などがその典型だろう。
ただ、個人投資家が商品先物やエネルギー、金属などに幅広く分散して取引するのはあまり現実的ではないため、基本的には個別株の取引だけでもいいのではないか、と筆者は考えている。
個人投資家の場合、個別株については「成長株投資」といわれる投資手法と相性がよいと思われる。「オニールの成長株発掘法」(パンローリング刊)で紹介されているような銘柄選別法を用いて候補をしぼって、「タートル流投資」で注文のタイミングを計るといったスタイルがよさそうだ。
「タートル流投資」は勝ちトレードが3割、負けトレードが7割程度といわれる。勝率は高くはないが、損失となる取引の平均損失額よりも利益となる取引の平均利益額が大きくなるため、トータルでは利益となる戦略。実際、タートルズの参加者の3人に2人は利益を上げる投資家になった。その手法は勘に頼るものではなく、決められた指標を使ってトレードするものだ。
「タートル流投資」は、テクニカル分析の投資手法に分類され、上昇しはじめた株をさらに値上がりすると見込んで買う(または、下げはじめた株をさらに値下がりすると見込んで空売りする)、順張りの戦略(トレンドフォロー)である。
そして、過去のチャートの検証結果から主要な金融商品の取引で、長期的にプラスのリターンを上げていることが判明している。
では、「タートル流投資」に欠点はないのだろうか――。一つは精神的なプレッシャーがかかる手法だということだ。「タートル流投資」は、勝ちトレードよりも負けトレードのほうが多くなることが多い。連敗が続くことも、決して珍しくはないだろう。だから、「損小利大」を実現する必要がある。
損切りのルールを一度でも破ったり、決済サインが出ていないのに、上昇中の株をわずかな利益で売ったりしてしまうようでは、トータルで利益を上げることはできないだろう。また、「買い」のサインが出ているのに、それを無視して買わないのも問題だ。
とにかく、プレッシャーに負けないで「ルールを守り続ける」ことが大事なのだ。(ブラックスワン)