有給休暇をちゃんと取れるかどうかは、その会社がいかに働きやすいかの目安の1つになるだろう。どの業界の有給消化率が高いかを調査すると、なんと「消費者金融」がトップだった。
消費者金融といえば、かつては「サラ金」「マチ金」「ヤミ金」などといわれ、社会問題になった業界。怖~いイメージがあったが、どうやって従業員が休みをとりやすい職場に変わったのだろうか――。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部が取材した。
ワースト3は「飲食業」「冠婚葬祭」「農業」
この調査は、就職・転職者向け企業情報を提供するサイト「Vorkers」を運営するヴォーカーズの「働きがい研究所」が2018年12月13日に発表した「Vorkers有給消化率レポート 一番休めている業界は?」だ。Vorkersの特色は、会員による入社した企業のクチコミ投稿。調査では、現職の社員による約17万2300件の投稿からデータを集めた。
来年(2019年)4月から施行される働き方改革関連法では、年10日以上有給休暇の権利がある従業員について、最低でも5日以上取得させることが義務付けられる。企業側に罰則を設けることで、従業員を強制的に休ませることが狙いだ。そこで、いったいどの業界がしっかり有給をとれているかを聞いた。
それによると、有給消化率の平均は2012年には約41%だったのが、2018年には約51%と、6年間で10ポイント増えた。特に20歳代では51.8%(30歳代51.0%、40~50歳代49.9%)と、若い人ほどしっかり休む傾向にある。
業界別にみると、トップは「消費者金融、事業者金融(いわゆる商工ローン)」が76.7%。次いで「バイオ関連」(72.7%)、「通信、ISP(インターネットサービスプロバイダー)、データセンター」(72.5%)となった。この上位3業界だけが70%台だ。ちなみに、ワースト3位は「飲食、フードサービス」(24.1%)、「冠婚葬祭」(27.7%)、「農業、林業、水産、畜産」(28.3%)である。1位の消費者金融は最下位の飲食業の3.2倍も有給消化率が高いことになる=図表参照。
いったい、どうして消費者金融の従業員はしっかり休めているのか。取材に応じたヴォーカーズ「働きがい研究所」の広報担当者は、
「正直言ってわかりません。ただ、クチコミからは業界として法令順守意識が高く、社内での有給取得の推進がなされていることがうかがえます」
と語り、次のようなクチコミを紹介した。
「有給届がないと、上司がいつ取得すると聞いてくる」
「部署によってはフレックス勤務を採用しており、仕事の都合に合わせて出勤、退社時間をコントロールすることは可能。シフト勤務の人は事前に申請をすれば、有給の取得がしやすい環境なため、プライベートの予定を立てやすい。基本暦どおりの出勤のためお盆という概念はないが、夏休みの長期休暇も取得できる。残業は基本禁止なので残業も少ない」(管理部門、男性)
「部署によるが、シフト制の部署の終わりは18~21時。仕事終わりにどこかに行くのはなかなか難しいが、有給は月1なら比較的取得しやすい。かつリフレッシュ休暇も5日間もらえ、契約社員も対象なので長期休みも取れます」(営業事務、女性)
「土日は必ず休みですが、それ以外にも月に1度有給休暇を必ず消化しましょうという風習が定着しています。有給届がないと、上司が次回の有給はいつ取得するのかと聞いてくれます。取得する後ろめたさもなく、週末3連休にして旅行に行ったりしてプライベートが充実しています」(営業、男性)
一方、ワースト1位の「飲食、フードサービス」は悲しいクチコミが多い。
「どこの店舗も慢性的な人手不足が続き、社員の労働時間、拘束時間が増え続けている。普段の休みもアルバイトの人数次第だ。自分の店舗の人手が足りても近くの店舗で不足があると、ヘルプに行かなくてはならず、休日が減る要因になっている」(店舗運営部、男性)
「アルバイトが多くいる店舗ならいいが、少ないと休めない。休んでもアルバイトが急に欠勤すると急きょ出ていくことになる。店の横のつながりでフォローし合うが、自分が休みたいために人を出してくれとは言いにくい」(店長、男性)
広報担当者はこう指摘する。
「飲食業界の有給消化率は、全体の平均(51%)の半分以下です。慢性的な人手不足から社員の負担が増え、有給休暇を取るどころか、通常の休みを確保することも危ぶまれる状況であることがクチコミからもうかがえます」
ところで、ワースト2位に「冠婚葬祭」が入っているのはどういうわけか。少子高齢化により、結婚式の需要は減っているとはいえ、葬式は増えており、成長産業ともいわれているではないか。
広報担当者は、
「すべてお客様に合わせての勤務になるので、業務が追いつかずに通常の休みをとることさえ難しい状況です」
と説明し、こんなクチコミを紹介した。
「お客様ありきのお仕事なので、結婚式当日はもちろん、打ち合わせもすべてお客様の予定に合わせていかなければなりません。そのため、こっそり休日出勤をしなくてはならない場合もありますし、常に仕事に追われているため、満足に昼食や休憩を取ることもできません」(営業、女性)
喜びながらも首をかしげた広報担当者は...
それにしても、「消費者金融、事業者金融」の有給消化率がトップなのはなぜか。貸金業界の自主規制機関である「日本貸金業協会」のホームページを見ると、「協会員の法令遵守の支援」に大きなスペースを割いており、社内規則の作成や研修支援に熱心に取り組んでいることがわかる。
業界をあげて労働関係の法律をしっかり守らせ、従業員の福利厚生の向上を図っているからの効果だろうか。協会の広報担当者に話を聞くと、意外な答えが返ってきた。
――この有給消化率トップの結果をどう思いますか?
協会の広報担当者「正直に言って、加入している全部の業者がアンケートの調査結果どおりに労務状態がいいのかどうかわかりません。協会に加入している貸金業者は約1100社ですが、うち8割が法人で、残り2割の約220が個人事業です。業者の規模はさまざまですから、個人事業のところまで一概に有給取得率がいいといえるかどうか......」
――しかし、協会として協会員の法令順守に努めているではありませんか?
協会の広報担当者「それはあくまで、貸金業法に基づく貸付業務は、ちゃんと法令どおりに行なおうという指導であって、個々の協会員の労務管理や福利厚生面には一切タッチしておりません。たとえば協会員のテレビCMや新聞、雑誌広告も事前に審査するなど、健全化に努めてきました。最近では、行政処分を受ける会社もなくなってきました」
――クチコミでは、「暦どおりに休める」「上司が有給取得を勧める」とあります。土日祝日はしっかり休める業務形態が有給消化率の向上につながっているのでは?
協会の広報担当者「さあ、それはどうでしょうか。最近はネットで24時間貸付を行なうところが多いですから、システム関係の従業員は暦どおりにはいかないと思います」
――では、なぜ有給消化率がトップになったと考えていますか?
協会の広報担当者「マスコミに取り上げられる場合は批判的な捉え方が多かったですから、今回のように好意的な形で取り上げられるのは、内心喜ばしいです。おそらく貸付業務をちゃんと法令どおりに行なうことを徹底させてきたことが、労務や福利厚生面でも法令どおりにやろうよという動きになったのではないでしょうか」
どうもよくわからないが、業界のイメージを上げるために健全化に努めた結果、労務管理面でも健全化が進んだのかもしれないという、まことに謙虚な回答だった。(福田和郎)