「長時間労働をやめよう」というスローガンのもと、働き方改革が進められているが、日本企業の残業体質はなかなかなくならない。それはなぜか――。
組織に残業が発生するには「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」と、まるでウイルスに感染して広がるような病理現象があることが研究でわかった。この残業発生メカニズムの理解なくして残業はなくならないと研究者はいう――。
この研究は、立教大学経営学部の中原淳教授(人材開発、組織開発)と組織・人事コンサルティングのパーソル総合研究所シンクタンク本部主任研究員の小林祐児さんが実施。2018年12月、著書「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」(光文社新書)にまとめた。
メカニズム1:残業は出来る人間に「集中」する
中原教授と小林祐児さんは、さまざまな職種で働く約1万2000人の男女(上司層約2000人、メンバー層約1万人)の長時間労働の実態を詳しく調べた結果、おもしろいメカニズムを発見した。長時間労働(残業)の習慣は、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」という4つの過程によって、組織的に「学習」され、世代を超えて「継承」されていくという。まるで、感染症のウイルスのように組織を病理でむしばんでいくわけだ。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた小林さんは、
「『業務量の多さ』とか『個人の仕事の速さ』といった独立した原因に注目している限り、残業のメカニズムそのものを解除することはできません。組織の中に長く浸透し蓄積された効果なので、人が入れ替わっても継承されていきます。残業をなくすには、そのメカニズムを知る必要があります」
と説明する。
残業は、特定の優秀な人に「集中」する傾向が強い。小林さんたちは、調査対象者に自分の「能力」を5段階評価で自己申告してもらった。「オフィスソフトスキル」「文章作成・読解力」「指示・説明力」「プレゼン資料作成力」「情報収集力」の5つの仕事力だ。そして、その能力が平均点以上の高い人と、以下の低い人の残業時間を比べると、高い人の方が1.4倍多かった。明らかにスキルの高い人に残業が集中しているわけだ=図表1参照。
その理由について、小林さんはこう指摘する。
「これには、上司の部下への仕事の振り方が大きく関連します。上司層に仕事の割り振りを尋ねると、『優秀な部下に優先して仕事を割り振る』という回答が6割を越えています。特に成果主義が広まってから、この傾向が高まっています。つまり、短期的な成果を追うためには、優秀な人を中心に割り振るのが効率的ということです。このため、従業員全体を長期的に育成する方法がおろそかになり、従業員視点で見れば、個人が残業を減らすために独力でスキルを上げる努力をしても、職場では、スキルを上げた個人に業務が振られてくる構造になっているということです」