まさに、「ゴーンショック!」。日産自動車の会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が逮捕されたニュースに、世界中で激震が走りました。
日本時間の2018年11月20日夕方に速報が流れるやいなや、パリ株式市場ではルノー株が暴落。日産自動車を「V字回復」させたカリスマ経営者だけに、各国メディアがトップニュースで報じました。
でも、あれ? 何か違和感が...... ゴーン容疑者は「ゴーン」じゃなかったの??
本名は、ゴーンじゃなくて「ゴスン」だった?
「ゴーン逮捕」の一報は、シンプルなものでした。ビッグニュースだけに、各メディアは速報性を重視したのでしょう。ちなみに、「速報」は英語で「breaking news」です。
Nissan chairman Carlos Ghosn arrested over misconduct acts.
(日産自動社の会長カルロス・ゴーンが、不正行為で逮捕された)
時間が経つにつれて、報酬の過小報告だけでなく、会社の投資資金や経費の不正使用などが明るみになると、わざわざ「numerous」(数々の)と強調する報道も現れました。
形容詞が一つ加わるだけで、ずいぶんとインパクトが強まることがわかります。
Nissan chairman Carlos Ghosn arrested over numerous misconduct acts
(日産自動社の会長カルロス・ゴーンが、「数々の」不正行為で逮捕された)
ところが、ニュースを追ううちに「あれ?」と違和感が。ゴーンのスペルは「Gone」だと思い込んでいたのですが「Ghosn」だったとは!
見慣れないスペルに、「何と発音するのかな?」と不思議に思っていたら、朝日新聞の一面コラム「天声人語」で答えを見つけました。
筆者によると、ゴーン容疑者は中東レバノンの高名な一族の出身で、本来の発音は「ゴーン」ではなく「ゴスン」だそうです。
それでも、「Ghosn is gone」(ゴーンがゴーン=ゴーンが去る)というワードが世界中を飛び交ったことから「ゴスン」ではなく「ゴーン」で認知されていることがわかり、ちょっと安心しました。「ゴーン」で間違いなさそうです。
「ホイッスル」を吹かれたゴーン容疑者
それにしても、会社の資金でブラジルやレバノンなど世界4か国で豪邸の提供を受けていたり、社用ジェット機を私用で利用したりなどの「ケタ違いの私的流用」ぶりが報道されるにつれ、いったいどんな金銭感覚だったのかとあきれてしまいます。「V字回復劇」の裏でこんな不正がはびこっていたとは......
まるで映画かドラマになりそうなドラマティックな展開ですが、逮捕のきっかけとなったのは、日産社内からの「内部告発」だったようです。
Nissan said it conducted an internal investigation that lasted several months based on a report from a whistleblower
(日産自動車は、内部告発を受けて数か月間、社内調査をしていたことを明らかにした)
・an internal investigation:内部調査
・based on~:~に基づいて
・whistleblower:内部告発者
報酬の過小報告も、資金や経費の不正使用も、カリスマ経営者とはいえひとりでできるものではないでしょう。報道によると、幹部が司法取引に応じて調査に協力しているとのこと。少なくとも報道の世界では、「Ghosn is not gone」(ゴーンは去らない=話題の中心)の状態が続きそうです。
今週のニュースな英語は「whistleblower」(内部告発者)に関連する表現を紹介します。
文字どおり「whistle」(ホイッスル)を「blow」(吹く)する人から、「警笛を鳴らす人」「告発をする人」という意味です。不正を告発したり、通報したりする時に使います。
Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)
whistle-blower system(内部通報制度)
「whistle」(ホイッスル)と「blow」(吹く)を使った次の表現もよく使います。
blow the whistle on~(~を告発する)
blow the whistle on illicit behavior(違法行為を告発する)
・illicit:違法な
じつは、「whistleblower 」や「blow the whistle on」の例文を辞書で確認していたら、「告発をしたらクビになった」「告発が原因で職を失った」という例文を目にして、沈んだ気持ちになりました。
英和辞典だけではなく、英英辞典でも同じような例文がありましたから、まだまだ「内部告発」が保護されない現状があるようです。所得格差から人の幸せ、そして正義感について......。とにかくいろいろなことを考えさせられる事件です。(井津川倫子)