厚生労働省の調査によると、2017年の日本人の有給休暇取得率は51.1%だったことが明らかとなった。50%を超えたのは20年ぶりだそうだが、政府が掲げる目標、有休取得率70%まではまだまだギャップは大きいと言わざるを得ない。
2019年度からは(年10日以上付与の従業員を対象に)年5日以上の取得を会社側に義務付けることが決まっているため、表向きの有休取得率はそれなりに底上げされるだろう。
だが、当たり前の話だが、従業員が自身の権利である有給休暇を取得できていないからといって、政府が命じて取得させるというのは、ワークライフバランスの改善という理念とは逆行する話だろう。
「自由に権利が行使できない構造的な事情」にメスを入れることこそ、政府に求められる「本物の改革」だと考える。では、その構造的な事情とはなにか――。
「自分の担当分は済んだので休みます」は言いづらい
日本企業で一般的な職能給という賃金制度は、本人の能力(実際には勤続年数)に応じて処遇の決まる属人給であり、担当業務の範囲はきわめて曖昧だ。パートや派遣社員のように、「実際に担当する業務で時給が決まる」賃金制度とはまったく異なる仕組みだ。
この曖昧さには大きなメリットがある。自分の担当業務の枠内に閉じこもることなく、手が空いたものがどんどん仕事をこなすことで、チーム一丸となって作業を進められるというものだ。
この点が、少なくともかつてのモノづくり大国の原動力になっていたことは間違いない。
一方で、業務範囲の曖昧さには強いデメリットもある。手が空いたものがどんどん作業をこなす前提である以上、「自分の担当分は終了したので有休をとります」とは、雰囲気的になかなか言いづらい。
現実には「自分の仕事を終えても次から次へと仕事が降ってくるから、わざと締め切りギリギリまで引っ張ることにしている」というビジネスパーソンも珍しくない。現代においては、むしろ業務範囲の曖昧さは生産性を押し下げる原因となっている面が強い、と筆者は考えている。
有休取得率の高い管理職が共通してやっていること
では、現状のまま有給取得を促進するにはどうすればいいだろうか――。じつは管理職にも部下に有休をうまく取得させる人とそうでない人がいて、前者が共通してやっていることが一つある。
それは、普段からある程度は業務の割り振りを明確にしておき、各人に裁量を与えて比較的自由に進めさせることだ。これにより、従業員は同僚の目を気にすることなく、やることさえやれば自由に有休を取得してもいいという空気が醸成される。
それだけで自分の経験で言えば、有休取得率は5割を超えるはずだ。
同様の取り組みを全社レベルで徹底させ、部署全体の有休取得率を管理職の数値目標に入れるなどすれば、有休休暇取得率7割というのは、じつはけして実現不可能なレベルではないというのが筆者のスタンスだ。(城繁幸)