口出しはほどほどに! 円滑な事業承継には社長はポンコツがちょうどいい?(大関暁夫)

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社長にモノを言えないつらさ

   「技術的問題」は、「複雑で難解な場合もあるが、基本的に解決策がわかっており、既存の知識で対応可能である」と。すなわち、必要な知識やスキルを身につけていれば、基本的には対処が可能であるということです。

   一方の「適応課題」はと言うと、「その人の優先事項、信念、習慣などを変えなければ対処不能である」と、何やら難しげなことが言われております。噛み砕いて言うと、「適応課題」は知識やスキルだけでは対処できず、その解決には自身自身を変える必要がある、ということになります。

   T社長が事業承継に向けて着手したH副社長への権限委譲は、ハイフェッツ氏が言うとおり「技術的問題」は解決したものの、「適応課題」はやはり難しく、半年を経過した段階では未解決状態にあると言えそうです。つまりはH副社長の「信念、習慣」などが変化しなければ、G社のトップ交代による事業承継はうまくバトンタッチができない、ということになるのです。

   この話を思い出しながら考えた私は、社長の経営バトンタッチに向けたお悩みはよくわかるものの、聞く限りこれはどこまで行っても後継たる副社長の意識改革待ちしかないという結論を置きました。

   そんな話を終えて社長室を出た時に、たまたま顔見知りの総務部長に出くわしたので、立ち話で総務部長から見た後継者候補としてのH副社長の評価を聞いてみることにしました。すると部長からは思いがけない、重大な情報がもたらされたのです。

「ここだけの話ですが、副社長はかわいそうですよ。社長は『今後はすべての決定を副社長に任せたから、すべて彼の指示に従うように』とわれわれ幹部社員にも公言したのですが、実際にはどうかと言うと、何かにつけてアドバイスと言いながら、ついつい意思決定にかかわる口出しをしたり、あるいは先回りで社長が動いてしまうから、社長がつくった流れを副社長は変えようがなかったり。あれでは副社長は自分の意思を通しようがないと思います。副社長もわれわれも、そこは思っても社長に言えないところがつらいわけですけど......」
大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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