仮想通貨の下落が止まらない。代表的な仮想通貨であるビットコインは2017年に1000ドルから、その年の12月に2万ドルに肉薄するまで上昇したが、一転して下降しはじめ、このところ6500ドル前後で推移している。
つまり、数か月で3分の2近く下がったということだ。ビットコインはまだいいほうで、ビットコイン以外では90%以上下がった仮想通貨はザラであり、95%程度下がったものが多い。仮想通貨に投資している投資家の大半は大きな損失を抱えることとなった。
リーマン・ショックを予言した教授
このネガティブな空気に拍車をかけたのが、この10月、米上院の銀行住宅都市問題委員会での米ニューヨーク大学のルービニ教授の証言だ。ルービニ教授は金融の最前線の研究者の一人で、リーマン・ショックを予言したことで一躍有名になった。
この証言には「仮想通貨はペテンと(すでに崩壊した)バブルの源泉だ」という刺激的なタイトルがついており、仮想通貨が如何に問題であるかについて述べられている。
教授の指摘した重要な部分を、以下にまとめておこう。
(1)ICO(イニシャル・コイン・オファリングの略。仮想通貨を新たに発行して資金を集めることを指す)の81%が最初からイカサマで、11%は破たんした。残り8%だけが今も取引所で取引されている。
(2)仮想通貨は通貨としては使いづらく、通常の支払い手段としての機能は果たせない。価値が常に大きく変動するようでは価値尺度の基準となりえない。一方でドラッグや脱税、マネーロンダリング(資金洗浄)などに使われて犯罪の温床となっている。
(3)各国通貨の価値は国が保証しているが、仮想通貨は日々新たに誕生しており、価値が下がっていくのも当然といえる。ビットコインは2100万に発行数が制限されているとされるが、ビットコイン・キャッシュやビットコイン・ゴールドなどに枝分かれして増えている。
(4)ハッカーの攻撃に弱い。鍵を盗まれたら1回のクリックで財産が消えてしまう恐れがある。今の強盗は銀行を襲うのではなく暗号にアクセスしようとする。
(5)不正な取引が横行している。ポンプ&ダンプ(価格を人為的に吊り上げて、直後に下げる)、見せ玉(買う意思がないのに買い注文を出し、価格を吊り上げる)、仮装売買(第三者を騙すために見せかけの売買をする), フロントランニング(客の注文を受けたら、その情報を使って自分が先に取引をする)といったものだ。これらの行為は株式市場では証券取引法で禁止されているが、仮想通貨にはそういう規制はなく、野放しになっている。
仮想通貨に必要な「不正取引への罰則」と「情報開示」
仮想通貨にはルービニ教授が指摘するように、さまざまな問題がある。
筆者も本コラムで以前指摘したところであるが、重要なのは市場の信頼性が低いということだ。仮想通貨の一つの特徴は、政府とは無関係に自由に発行され流通する通貨であるというところだが、実際は規制が緩いところに付け込んだインサイダーが好き勝手に振る舞う市場となってしまった。
今の状況で仮想通貨の取引をすることはとてもオススメできない。不正な取引が横行して個人が被害を受けていることは周知の事実である。
一般人が参入するためには法律によって証券あるいはコモディティー(商品)として認定され、しかるべき規制を受けることが最低の必要条件だろう。不正な取引をした人は罰せられる、必要なディスクロージャーがきちんとなされる、といった環境がそこに存在しなければ安心して取引はできない。
筆者は何も価格が下がったからダメだ、と言いたいわけではない。仮に今後、価格が上がることがあったとしても、だからよいとも言えない。問題はその本質にある。どんなマーケットでも、きちんとしたルールと、その実効性を担保する仕組みがないとフェアなものにはならない。
そうでないと運を天に任せるような話となり、とても投資とは呼べなくなってしまう。
ルービニ教授の証言が発表されたあと、それに対して数多くの非難や中傷がインターネット上に溢れた。仮想通貨は新たなビジネスチャンスであり、それを妨害するような意見は許しておけないということだろう。それだけ本質をついた批判だったということではないか。
最終的には読者自身が判断するしかないが、投資するにあたっては、その商品のリスクを十分に理解すべき、というのはどんな投資にも当てはまる黄金律である。(小田切尚登)