「高齢者住宅」にまつわる2回目は、高齢者の一人暮らし、いわゆる独居老人について取り上げる。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、1980年に「子供夫婦と同居」していた65歳以上の高齢者は52.5%だったのに対して、2016年には11.4%にまで減少している。つまり、約5人にひとりが「独居老人」となっているわけだ。
背景に「生涯独身」男性 2040年に14.9%の未婚率
国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によれば、2035年に独居老人は841万人にまで増加する。1980年には88万人しかいなかった独居老人は10倍に膨れ上がり、約4割の高齢者が独居老人となる。
この背景には、男性の独居老人の増加がある。女性高齢者の独居率は、2000年に17.9%。15年に21.8%と増加し、40年には24.5%と推計されており、比較的に緩やかな増加傾向をたどる。ところが、男性の独居率は2000年に8.0%だったものが、15年には14.0%に、40年には20.8%に増加すると推計されている。
原因は、男性の生涯未婚率の増加だ。65歳以上高齢者の未婚率は推計で、2015年は男性5.9%、女性4.5%だったが、40年には男性14.9%、女性9.9%に増加する。
核家族化というライフスタイルの変化により、「子供夫婦と同居」する高齢者が大幅に減少し、高齢者世帯は夫婦二人での居住に変化した。男性よりも女性のほうが、より平均寿命は長いので、夫と死別したあとの女性の一人暮らしが独居老人の中心だった。
夫婦二人暮らしで、どちらかが死別したあとに一人暮らしとなるのが、これまでの独居老人となるパターンだったが、これからは生涯結婚をせずに、独居老人となるパターンが増加していくことになりそうだ。
孤独死の死因の半数は「病死」
「独居老人」には「孤独」というイメージが強いが、これからは生涯にわたり家庭を持たなかった独居老人が増えることで、なお一層、「孤独」のイメージが強まるかも知れない。
事実、「孤独死」は2016年に日本少額短期保険協会がまとめた「孤独死の現状」というレポートによると、60歳代がもっとも多い。ただし、孤独死は、東京都監察医務院では「異常死のうち、自宅で死亡した一人暮らしの人」と定義。厚生労働省では「社会から孤立した結果、死後長時間放置された事例」と定義するなど、一定ではない。このレポートでは、「自宅内で死亡した事実が死後判明に至った一人暮らしの人」と定義付けている。
このレポートの定義では、60歳代の男女がもっとも高い比率となるが、じつは30歳代や40歳代の女性の比率も高い。これは、孤独死の死因として自殺が含まれることにある。
孤独死の死因の半数以上は「病死」によるものだが、30歳代では半数以上、40歳代でも25%以上が「自殺」が死因となっている。これに対して、60歳代の割合は10%以下でしかない。
むしろ、独居老人に「孤独死」のイメージが強いのは、その発見までにかかる時間によるところが大きい。孤独死の発見者は、親族が約30%、住居の管理会社が約25%、福祉関係者と他人(隣近所の住人など)が約16%、友人が約13%となっている。
つまり、親しい親族や友人といった「気にかけてくれる人」の存在がある場合には、比較的に早く孤独死が発見されるが、「家賃の滞納」や「異臭」などが孤独死の発見のきっかけとなる場合には、発見までの期間が長くなる。
今後は、家族を持たない生涯独身だった独居老人が増加することを考えれば、発見までに時間のかかる「孤独死」は、ますます増加すると思われる。親族だけではなく、地域社会とのコミュニティを強化することで、独居老人の孤独死を防ぐことが求められているのではないか。(鷲尾香一)