フルネームで「バア~ン!」と判を押すとカカア天下?
名前だけの実印を作る女性は、どれだけいるのか。創業125年の印鑑彫刻の老舗「小林大伸堂」(福井県鯖江市)の4代目印章彫刻士、小林照明さんに聞いた。
――名前だけの実印を作る人は、男女それぞれどのくらいいますか。
「うちのお客さんでは、女性の60~70%が名前だけです。男性ではほとんどいません。90数%以上がフルネームです。
女性の場合、結婚すると名字が変わる人が大半ですから、生まれた時に親につけてもらった名前に対する愛着が男性より強いですね。自分の名前を大切にしたい、アイデンティティーにしたいという気持ちが印鑑に表れます」
――結婚してから実印を作る場合もそうですか。
「はい。夫の姓は自分の名前ではないという違和感が少なからずあると思います。よく女性は、名字で呼ばれるより、『○○子さん』と名前で呼ばれる方がうれしいですよね。それと、古い考え方かもしれませんが、昔から『女性は名前のみの実印を作ると縁起が良く、吉』といわれています」
――ほう。それはどういうことですか。
「日本の女性は、夫の三歩後ろを歩くとか、夫を立てるとか、控えめの方が家庭円満になるといわれます。ところが、フルネームの4~5文字の印鑑で、『バア~ン!』と判を押すと、まるでカカア天下のような印象を与えてしまいます。名前だけで字数が少なく、ワンサイズ小さい控えめの実印を作ると、女性が幸せになれるといわれるゆえんです。もちろんハンコ1つで幸せになれる確証はありませんが」
――なるほど。しかし、名前だけの印鑑では重みがないですね。ビジネスの場合はどうするのですか。
「確かに、女性社長が『真理子』『和子』などというハンコを契約書に押すと、『なにコレ?』と不審がられることになります。そこで私は、女性には実印と銀行印は名前だけで、ビジネスの場に使う認印はフルネームか名字で、と勧めています。会社の中で使う認印に『さとこ』では、どの部署の誰のハンコかわかりませんからね。
銀行印も、かつては『ポチ』という犬の名前でも口座を開けましたが、最近は、個人情報保護からちゃんとした人物名でないとダメになりました、しかし、名前のみでOKのところがほとんどです。家族の中で、同じ銀行を夫が名字で、妻が名前でと使い分けると便利です」
(福田和郎)