「顔認証、指紋認証の時代になれば意味がなくなる」
記者が周囲の同僚男性に聞くと、ざっと4対6ほどの割合で「知らなかった」派がいた。あらためて働く女性たちに取材すると、知らなかった割合はざっと3対7に減ったが、男性とは違って、それぞれの選択に女性ならではの思いが込められていた。まずは「知らなかった」派から――。
「かなり前に弟のマンション賃貸契約の保証人になるのに実印が必要になり、あわてて持っているハンコ(名字だけ)を印鑑登録しました。現在、いつ終わるかわからないシングルの私、結婚しても! 離婚しても! そのまま使える実印を作る機会を逃してしまいました。戻れるなら、きれいな色のヒスイで作り直したい」(40代・事務職)。
「名字だけで作っていますが、別に大丈夫。実家の名前を継ぐために婿以外の人と結婚するつもりないから」(20代・事務職)。
「夫婦別姓などという考え方もなかった時代だから、当たり前のように夫の姓のフルネームで作りました。印鑑なんか形式だから別に後悔していません。これからは顔認証、指紋認証の時代だから、名前だけとか、意味がなくなります」(60代・大学講師)
「元ダンナの姓のフルネームで作りました。離婚したので、名前だけにしておけばよかった」(40代・フリーライター)。
一方、「知っていた」派は名前だけにしている人が多い。
「結婚前に名前だけで。結婚したら名字が変わるし、ただでさえ銀行とかビザとか、名義変更が大変なのに、登録変更やってられるかーー!という怒りに打ち震えたものです」(30代・イベント企画)。
「成人式の時にお祝い品として市からいただき、それがたまたま名前だけでした。男性ももらったはずですが、名前だけかは聞いていません。親に見せると、『結婚してからも使えるから便利だよ』と言われました。会社や銀行、住所登録など、何にでも使えてNGをもらったことは一度もありません」(20代・営業企画)。
「社会人になった時に実印を作る時に知人から教わり、名前だけで。ひらがななので、デザインにこりました。5歳の娘の銀行口座を作った時も、将来も使えるよう、ひらがなの名前だけの印鑑を作りました」(40代・元新聞記者)。
名前だけの実印を作りたかったのに、夢を果たせなかった人も――。
「夫の姓のフルネームです。もともと夫婦別姓が希望だったこともあり、香港で作った名前だけの印鑑で登録しようと区役所に持って行きました。しかし、印鑑の素材が割れやすい石だからダメだと断られ、名字だけだと抵抗があるので、ささやかな反抗としてフルネームに」(40代・営業企画)。