企業の人手不足が収まらないことで、いわゆる「人手不足倒産」が後を絶たない。都市部の小規模な企業ほど厳しい状況に陥っている。帝国データバンクが2018年10月9日に発表した。
2018年度上半期(4~9月)の「人手不足倒産」は76件の発生で、負債総額は110億4200万円だった。企業倒産の全体件数(4012件)が、前年同期を4.4%下回る一方で、「人手不足倒産」は40.7%と大幅に増加。2年連続で前年同期を上回った。増加率も16年度下半期(42.4%増)以降、連続で2ケタを超えている。
厳しいサービス業や運輸・通信、建設業
帝国データバンクは、従業員の離職や採用難により収益が悪化したことなどを要因とする倒産(個人事業主含む、負債1000万円以上の法的整理)を「人手不足倒産」と定義。過去5年半(2013年度上半期~18年度上半期)に発生した倒産を集計、分析した。
負債規模別にみると、2018年度上半期「1億円未満」が45件発生と、前年同期の22件に比べて2倍に増加。構成比も59.2%と過半を占めた。5年半の累計をみても、小規模倒産が最も多かった。
業種別では「サービス業」が前年同期比73.3%増の26件。「運輸・通信業」は17件で、半期の件数ペースで初めて2ケタの発生となった。7業種中4業種で前年同期を上回っていた。
5年半の累計でみて、最も多いのは「建設業」の184件(構成比33.1%)で、「サービス業」が132件(29.5%)と続き、この2業種で全体の62.6%を占めた。
運送、建設、派遣業の倒産の背景
さらに業種を細かく分類して累計件数をみると、「道路貨物運送」が最も多い38件となった。景気回復や通販市場の拡大で配送需要が高まるなか、ドライバー不足による新規受注難から資金繰りの悪化を招き、倒産に至ったケースが目立つ。
「老人福祉事業」は、介護福祉士やケアマネージャーなどの有資格者の確保が追いつかず、十分なサービスを提供できないなどの理由から27件発生した。
「木造建築工事」は職人不足を背景とした外注先の確保難などから、36件。「労働者派遣」は製造スタッフやIT技術者など、派遣人員の不足などから21件となった。
5年半の累計で最多の建設業を含め、慢性的な現場職人や施工管理者の不足により、労務費の上昇が深刻化している業種がみられた。
また、5年半の倒産累計件数を都道府県別で比較すると、「東京都」が65件で突出。「福岡県」の34件、「大阪府」の32件と続いている。大都市ほど生き残りが激しい様子がうかがえる。
この10月から最低賃金(時給)が全国平均で26円引き上げられた。最も高い東京都では985円と、この10年間で194円も値上がりし、都市部では時給1000円以上の求人も当たり前となりつつある。
人件費以外にも、企業を取り巻く環境は輸送費や原材料価格の高騰など、経営コストの上昇圧力が強く、小規模企業ほど厳しい状況におかれている。
深刻な人手不足への対処で、賃上げせざるを得ない企業が増えるなか、高待遇での従業員確保が困難な小規模企業を中心に、今後も「人手不足倒産」のさらなる増加が懸念される。
2018年8月の有効求人倍率(季節調整値、9月28日の厚生労働省発表)は1.68倍と、高水準が続いている。全国約1万社を対象とした調査によると、2018年9月「正社員が不足している」と答えた企業は全体の51.7%を占め、1年前の48.2%より3.5ポイント増加していた。