「働き方改革関連法」が国会で成立して4か月。長時間労働の是正や同一労働同一賃金など、働く人にとっていいことも多く盛り込まれたが、企業にはその法の趣旨が浸透しているだろうか――。
人材採用のエン・ジャパンが企業の経営者らに聞いた調査では、なんと5割の企業が「経営に支障が出る」と回答。「支障が出る内容」の上位に「時間外労働(残業)の上限規制」や「年次有給休暇の義務化」など、労働者を守る項目が目立った。
「従業員にいいことは会社に悪いこと」という企業のホンネが透けて見える。
特に不評な「残業の上限規制」と「有給取得の義務化」
働き方改革関連法は、「働き方改革を継続的に推進」「労働時間の短縮など労働条件の改善」「多様で柔軟な働き方を実現」「仕事と育児・介護の両立など働く環境の整備」「正社員・非正規など雇用の形にかかわらない公正な待遇」などが柱になっている。
こうした働き方改革の「柱」を達成するために、「労働基準法」「労働契約法」「雇用対策法」など8つの法律が改正された。これらをまとめて「働き方改革関連法」といい、2019年4月に施行される。
エン・ジャパンの人事向け総合サイト「人事のミカタ」が2018年9月21日に発表したアンケート調査によると、企業の経営者、人事担当者に「働き方改革法」の認知度を聞くと、「内容も含めて知っている」が21%、「概要を知っている」が74%と、「知っている」と答えた人が合わせて95%だった。
働き方改革関連法が施行されることで、「経営に支障が出るか」を聞くと、半数近くの47%が「支障が出る」(大きな支障が出る=9%、やや支障が出る=38%)と答えた。
中小企業ほど「支障が出ない」と答える割合が多く、企業規模が大きくなるにつれて「支障が出る」と答える割合が増え、従業員300人以上の大企業では、6割近い58%に達した=図1参照。
メーカーが嫌う「同一労働同一賃金」
「経営に支障が出る」と答えた企業に、どの内容が問題なのかを聞く(複数回答)と、第1位は「時間外労働(残業)の上限規制」で66%だった。
その理由については自由回答で、「結果的にサービス残業の増加で補う状態になってしまうと思う」(金融・コンサル関連)という声が多かった=図2参照。
第2位は「年次有給取得の義務化」の54%だった。
「人員不足の状況で、有給休暇をとる人がいる分、別の人の働く時間が長くなるため、支払う賃金が上がる。その結果、利益を圧迫してしまう」(サービス関連)
との声があった。
第3位が、「同一労働同一賃金の義務化」(43%)で、「労務費の上昇が考えられ、経営を圧迫しそう」(流通・小売関連)というワケだ。
業種別にみると、「経営に支障が出る」項目の上位が違ってくる。非正規雇用が多いメーカーでは、「同一労働同一賃金の義務化」(62%)が敬遠されて1位。個々の従業員がマイペースで仕事をすることが多い広告・出版・マスコミでは、「年次有給取得の義務化」(70%)が非常に困るようだ。
一方、全体的に「経営に支障が出る」という項目が少ない業界がある。裁量労働制の導入が進んでいる金融・コンサルティング業だ。もともと「時間外労働」を「みなし残業」として給与に織り込んでいるため、「時間外労働(残業)の上限規制」で経営に支障が出ると答えたのは、わずか13%。一番困るのは「年次有給取得の義務化」で38%だった。
賛否分かれる「中小企業には厳しいが......」
働き方改革関連法については、自由回答でも賛否が分かれた。賛成派は――。
「就業規則の見直しのよい機会になる」(サービス関連)
「働き方について日本は他国より遅れている。みんな自分の体調や家庭の状況を抱えて仕事しているのだから、働き方が多様化することで、多くの問題を解決するべきだ」(IT・情報処理)
「中小企業には厳しいが、従業員にとってはいい傾向」(メーカー)
一方、否定的な意見も、
「特に能力差がある職場では、同一労働同一賃金は判断が難しい。本当に守れば優秀な社員の不平不満が出るのが目に見えている」(流通・小売関連)
「残業の上限や有休を義務化したら生産性が下がる。生産性が下がる分、人を増やすと人件費が上がる。賞与を下げざるを得なくなり、モチベーションに影響がでる」(不動産・建設関連)
「システム化などで効率化ができず、人手を必要とする仕事は、労働時間が長くなった場合、人の増員しかない。人件費が高くなり、どこかでコスト削減のために無理な施策を考えてしまう」(メーカー)
と、少なくなかった。
なお、調査は2018年7月25日~8月28日に実施。対象は、「人事のミカタ」を利用している企業の経営者・人事担当者648人。(福田和郎)