「本庶語録」は世阿弥の教えにも相通じる真理
室町時代の能の大家である世阿弥は、弟子たちに自分の力量の磨き方、自己成長のさせ方に関して、「守・破・離」という言葉で教え説いたと言われています。
「守」とは、師匠の教えをそのまま守り、基礎をしっかりと身に付ける第一段階のこと。すなわち、ここが「教科書」どおりに学ぶ段階です。第二ステップが「破」。「破」とは、「守」で基礎固めができたらそれをただ繰り返すのではなく、教えにはない自分なりのやり方を加えていけと教えました。
それがうまく機能し、基礎の上に自分なりのやり方を加えて成長できたならば、「離」として師匠の下を離れ、一本立ちして自分が弟子を指導する立場になれるのだと。
まさしく「教科書を信じるな!」の精神は、古く世阿弥の教えにも相通じる真理なのでないかとも思えるところです。
「なるほど、世阿弥もいいことを言っているのですね。そうなのですよ。うちの若い連中はマジメで素直で、指導や教えにはしっかり従うのだけど、冒険しないというのかそこから脱皮しようという向上心がないのですよ。だからこそ、この機会に本庶先生の言葉を皆に意識させたかったわけで。とてもいいヒントをいただきました。世阿弥の教えを加えて、若い社員にハッパをかけさせてもらいます」
「管理職になりたくない」という人が爆発的に増えているという、あらゆる面で恵まれすぎた今の時代。M社長と同じくマジメで素直だけど決して冒険をしない、そんな若手社員を抱えた会社はけっこう多いのではないでしょうか。
本庶氏の一言は、今の世の若者に対する厳しい叱咤だったのかもしれません。
(大関暁夫)