「子持ちの女性が定時に帰った後の仕事を、独身者の私が毎日残業してこなしている」――。子どものいない女性は子持ちの人の分まで働かなくてはダメなのか、という投稿がインターネットで炎上ぎみになっている。
女性の多い職場によくある軋轢(あつれき)だが、どうしたら気持よく働くことができるだろうか。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部は、女性の働き方に詳しい専門家にアドバイスしてもらった。
どんなに忙しくても「私、子どもいるので」
話題のきっかけになったのは、女性向けサイト「発言小町」(2018年6月12日付)に載った「独身者は子持ちの人の分まで働かなくてはダメなの?」と題する、メーカーで働く40代独身女性の投稿。こんな内容だ。
「同僚と2人のチームで仕事をしていますが、彼女は子持ちのため、基本残業せずに定時で帰ります。どれだけ忙しくても私が毎日残業するのが当たり前という態度。私は現在足を痛めて病院でリハビリが必要なのに、『私は子供がいるから』と一切関係なし。上司に相談しても『俺は知らん』で話になりません」
ある日、あまりの痛みに定時に帰り病院に行くと、翌日、彼女から「仕事が終わっていない」と長時間嫌みを言われる有様。そのくせ、目上の人間と一緒の時は「子供がいますが、頑張ってま~す」とアピールで残業。上層部は「子どもがいる女性が輝ける会社を」という理想論が大好きなので、同僚の評価は高まる一方。堪忍袋の緒が切れた投稿者は「3年間頑張ったけど、もう限界。明日辞表を提出します」と結んでいる。
この投稿には、独身女性から同情と共感の声が相次いだ。
「私もアラフォー独身ですが、子どもの関係で早退する人の穴を独身者がフォローするのは当然だと思っています。しかし、独身者に無理が効かない時にフォローが得られないのは納得いきません。『仕事は、子持ちだろうと独身だろうと同じだろう』と言って辞める行動を応援します。狡猾な同僚と無責任な上司は、自分たちがいかに独身者に依存していたか思い知る事でしょう」
「子持ちというだけで色々免除されすぎになりつつあると思いますね。子どもがいたら大変なのはわかるけど、なんかもういじめに近い」
一方、子育て中の女性からは比較的冷静な意見が寄せられた。
「確かに子育て中となると、会社も今の時代、優遇せざるを得ないのはわかる気がします。そうしないと辞められるし、マスコミもうるさい。上司は上層部に文句を言われるのを恐れているのでしょう。私も復帰後は残業なしの時短を希望します」
「私は子持ちですが残業します。独身さんに仕事押し付けて当たり前とか思わないし、同僚に不都合があればフォローします。その人の仕事のスタンスと、独身とか子持ちとか関係ないから、サンプル一人で全国の働く主婦にケンカ売るのは勘弁していただきたい」
元凶は「理想論」の大好きな会社と無能な上司
そして、問題の根源は無能な上司にあるという声が多かった。
「3歳児がいます。申し訳ないですが、独り身の時と同じには働けないです。投稿者が同僚に『子供がいても同じようにやれ』と言ったとしたら、『女性が輝く』時代の流れに反します。同僚は『いつもごめんね』などの言葉が足りない人かもしれないし、上から可愛がられるちゃっかりキャラなのかもしれません。でもとにかく文句は上司に言って」
「そもそも業務量が残業しなくてはならないほど多ければ、上司が人を増やすべき。人を増やせないのなら、業務の選択と集中で、優先度の低い仕事はバッサリと切り捨てる。上司のマネジメント能力が皆無です」
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、この炎上騒ぎの意見を求めた。
――投稿の炎上騒ぎは、一見、子育て中のため定時に帰る女性の分の仕事を、独身女性が負担するという、子持ち女性と独身女性の対立のようにみえます。特に、子持ち女性の「憎まれキャラ」が際立っているため、対立が目立ちますが、問題の本質はどこにあるのでしょうか。
川上敬太郎さん「まず、企業側の問題があると思います。女性が活躍する上で、企業側が本来取り組むべき大切なことをないがしろにしています。『理想論が大好き』と言われてしまった企業上層部の姿勢と、相談に乗ろうともしない上司の無理解こそが、職場に混乱をもたらした元凶です。
私たちは以前、働く主婦に対し、『女性が活躍する上で企業に取り組んでほしいことは何か』を調査したことがあります。その中で2番目に多かった項目が『上司や同僚など職場の理解を促進してほしい』でした。これは、4番目の『保育所など子どもを預ける場所の設置や利用を補助してほしい』という項目より要望が強かったのです。
働く主婦層は、それだけ職場の理解を望んでいるのです。逆に言えば、主婦層が働くことに対する職場の理解がまだまだ不十分だといえます。自由回答の中には、『子どもが病気になった時、重要な仕事を任されては休みにくい』という声や、『同僚の負担増加をできるだけ軽減できる組織体制や、仕事分担の仕組みが必要だ』という声もありました」
――その声は、まさに今回の問題をついていますね。子育て中のママが定時に帰った後、職場に残る子どものいない女性に気を使っている点で...。
川上さん「そのとおりです。『独身者は子持ちの分まで働かなければいけないのか』という投稿タイトルは、いま日本中で起きている軋轢(あつれき)を象徴しています。まずは会社側がしっかりとイニシアティブをとって、上司、同僚を含めた職場全体が、お互いの立場を理解しあう状態をつくることが大切です。一方、職場の理解が進んでいないというと、子育てママより、お子さんがいない人がもっと理解すべきだ、というふうに捉えられがちですが、必ずしもそうとばかりは言い切れない面があります。当人同士のあいだにも問題があるように感じます。
何もお互いが聖人君子になれ、ということではなく、それぞれが置かれている状況を事実として受け入れた上で、ストレスなく、生産性高く仕事できる環境を共につくりだすスタンスが求められています」
「お互い様」は独身女性の将来にもプラス
――つまり、子持ち女性について、「あの人は周囲に気を使う人だから、サポートする」「あの人は自己中心的だから、協力しない」といった、当事者の人柄に関する感情的な問題にしてはいけないということですか。
川上さん「人間ですから、どうしても好き嫌い感情を完全に消し去ることは難しいでしょう。しかし、職場はあくまで仕事するための場ですから、お互いの理解が不十分で意思疎通ができない状態は、マイナスでしかありません。上司や会社側が、チームでスムーズに仕事するための目線合わせや環境づくりを、マネジメントを通して導いていく必要があります。
お子さんがいる社員は、自分が帰った後の人たちが仕事しやすい状態をつくり、協力を得やすい人間関係を保つスキルを磨くことが大事です。残る側としても、お子さんがいる同僚と上手く仕事をするスキル・経験を身につければ、自分自身のためにもなります。外国人やシニアの働き手など、これからますます職場の多様性が重視されていく時代になりますから、きっとキャリア形成にプラスになるでしょう。
それにたとえいま、お子さんがいなくても、いつ介護などで同じように家庭の制約を受けることになるかわかりません。『お互い様の気持ち』が必要です」
(福田和郎)