やはり始まるのか!? 「円安セカンドステージ」を読み解く(志摩力男)

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   先週(2018年9月25日週)、日本と米国は、日米首脳会談後の「日米物品貿易協定(TAG)」締結に向けて、新たな通商交渉に入ることで合意しました。

   この交渉、貿易協議に入る前はかなり警戒されました。事実、トランプ大統領は米メディアにかなりきつく警告(安倍首相との良好な関係も終わるかもしれない)していました。

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「円」の絶対水準はかなり安い

   しかし幸運なことに、首脳会談は極めていい雰囲気で終わり、いくら厳しいことを言っていても、トランプ米大統領は実際に会うと非常に友好的というというパターンが今回も繰り返されました。

   そして、米FOMC(連邦公開市場委員会)では予想どおり0.25%の利上げがなされたのですが、内容もほぼ予想どおりでサプライズのないものでした。

   ここのところ、FOMCの前に米金利上昇しドル円も上昇、FOMC後はその逆(噂で買って、事実で売る)というパターンが続いていたのですが、今回は素直に米金利の上昇を評価したのか、ドル高の動きとなっています。

   2018年のドル円相場は、ブル・ベア(相場の強気・弱気を示す。 ブル=Bullは強気。ベア=Bearは弱気のこと)拮抗してなかなか動かなかったのですが、じわりと円安方向に動き始めています。

   ドル円弱気派の理由は、日米貿易問題で米国側から円高圧力がかけられるということ。そして「円」の絶対水準が、かなり円安レベルであるということです。しかし、貿易問題から円高という懸念は、日米の貿易協議が順調に終わったことで、目先、払拭されています。

   「円」の絶対水準はかなり安いのですが、貿易黒字が大きくなり、輸出企業による円買いで為替マーケットが円高方向に動くというプロセスを経ないと調整されません。トランプ米大統領は、日本の対米黒字をなくせ! と主張しています。

   日本に工場をつくって輸出するということは、政治的に今後難しくなってきます。

「対外及び対内証券売買契約等の状況」分析にはコツがいる

   そうなると、日米金利差だけが残ります。日本の金利はこれまでずっと「ゼロ」でした。それはデフレ的な状況だったからですが、相当な円安にでもならない限り、状況は変わらないでしょう。日銀の黒田東彦総裁の発言を聞いていても、就任当初の自信は影を潜め、半分あきらめ顔になっています。

   日本に金利がない以上、機関投資家はどこかにリターンを求めなければなりません。財務省が発表した「対外及び対内証券売買契約等の状況」を見ると、この2週間ほど外国の中長期債を大きく買い越しています。9月9日からの週が2兆3000億円、9月16日からの週が1兆5000億円の貸し越しです。

   ところで、「対外及び対内証券売買契約等の状況」の分析には少しコツが必要です。居住者による対外株式、債券の取得処分額、外国人による国内株式、債券の取得処分額が発表されるのですが、これらの数字を単純に足し算引き算して為替相場の分析に使う人が、高名なエコノミストの方にもいらっしゃいます。しかし、それは大間違いです!

   たとえば、3大メガバンクをはじめ、国内銀行は大量に外国の中長期債を購入していますが、その売買に伴う為替売買は生じません。

   銀行は短期金融市場で資金調達し、その資金で中長期債を購入します。要は、長短金利差を取りに行っているのです。対象となる国の長期金利がいくら高くても、短期金利や実際の調達コストが高い場合、金利差が開きません。

   その場合、儲けが出ないので、銀行はそのようなオペレーションをしないのです。

機関投資家の動きが「円安」に持っていく!

   一方、生命保険や年金基金のような機関投資家は、為替リスクを取ります。しかし生保の場合は、3か月物の為替スワップなどで為替リスクをある程度消すようにします。そのため、近年は為替リスクをほとんど取らない傾向にあります。

   そうなると、実質的な投資行為は銀行と同様、長短金利差を取るのと同じになります。 最近、「米国のイールドカーブがフラットニングしている」という報道をよく聞くかもしれませんが、実際に米国の長短金利差はほとんどなくなり、長短金利差がひっくり返る「逆イールド」になるのではないかとも言われています。

   現在の状況では、欧州に長短金利差は少し残っていますし、イタリアなどのクレジットの悪い国の債券を買えば、相当の金利差があります。しかし、それはリスクを伴うものなので、できる金額には限界があります。

   どの投資主体がどのように投資したかというのは、週次ではなく月次の「対外及び対内証券売買契約等の状況」を見なければなりませんが、このイールドカーブに金利差がないときに中長期債を大量に購入したという事実は大きいです。

   つまり、長短金利差を取りに行ったのではなく、為替リスクを取りに行ったという解釈できるからです。

   米中の貿易問題が加熱化しつつありますが、それでも「リスクオフ」相場にはなりません。制裁関税が実際に米中の経済にインパクトを与えるまでは、無視されるのでしょう。

   新興国市場の混乱も、新興国国内に封じ込まれています。このところイタリアが話題ですが、はっきり言って大した問題ではありません。単なる相場ネタです。そもそも、財政赤字の2.4%が問題なら、毎年5%ぐらいの財政赤字を何十年も出し続けている日本はどうなるのでしょうか?

   このところの為替相場は極めて安定しています。動かないのであれば、金利が高い国の通貨を買っておけば利益が出ます。その動きが次第に顕在化してきたのではないでしょうか。日本に金利はありません。機関投資家の動きがドル円を円安方向に持っていくのではと考えます。(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
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