「男やもめにウジがわき、女やもめに花が咲く」ということわざがあるが、すっかり死語になったようだ。一人暮らしの男性は不精で不潔な環境にあるのに対し、一人暮らしの女性は身ギレイにして華やかであることを意味していたが、男女ともに独身者の大半が実家に住み、家事全般を親に任せて小ギレイにしているからだ。
そんな独身者の実態をまとめたレポートが発表された。なんと30~40代の独身男女の6~7割。50代でも半数近くが実家に居候している、というのだ。
J-CAST会社ウォッチ編集部は、ニッセイ基礎研究所の研究員・天野馨南子(かなこ)さんを取材。前編ではレポートの内容を、後編では天野さんのインタビューを、前後2回に分けて紹介する。
親が去る60代からイヤイヤ自立へ
独身男女がイヤイヤ自立に踏み出すのは、親が死んだり、施設入りしたりする60代になってから。居心地のよさに慣れ過ぎた独身者の人生はどうなるのか――。
レポートは、「データで見る『ニッポンの独身者は誰と暮らしているか』―『結婚のメリットがわからない』独身者の世帯(居場所)とは―」(2018年9月12日発表)だ。
これまでいくつか日本の未婚化問題のレポートを発表してきた天野さんは、海外メディアから取材を受けると、「オー、本当か? ありえない!」と驚かれることがある。「それは、日本の独身男女に『交際する相手がいない』という人が異常に増えていることです」と、天野さんは語る。
国が18~34歳の独身男女に「交際している相手がいるかどうか」を調べたデータがある=図1参照。30年前の1987年には「いない」と答えた人は男性の48%、女性の39%だったが、直近の2015年の調査では、男性の70%、女性の60%に上昇していた。
男性のほうが交際相手に恵まれないのが特徴だ。18~34歳といえば、どの国でも「恋愛盛り」の年代だから、外国人記者がびっくりするのだ。
2015年の国勢調査によると、20歳以上の結婚歴がない独身者は全体の22.2%(約5人に1人)で、男性は26.2%(約4人に1人)、女性は18.0%(約5人に1人)に達する。ここでも男性は女性より1.5倍独身率が高い。
こうしたモテる割合の男女差について、天野さんは「タイムラグの一夫多妻制」が日本社会に進んでいるからと、以前のレポートで指摘、J-CAST会社ウォッチでも「仰天、日本は『一夫多妻社会』? 未婚男性増のウラに『バツありオットセイ男』!」
(リンク:https://www.j-cast.com/kaisha/2018/06/30332049.html?p=all)という記事で紹介した。
天野さんは「未婚者の男女格差は、一夫多妻制の国では普通です。3~4人の妻を持つ男性がいるので、男性はあぶれます。日本は一夫多妻制ではありませんが、1人の男性が2度離婚し、初婚の女性と結婚すれば、タイムラグで2人の妻を持つことになり、事実上の「タイムラグ式」一夫多妻制が生じることになります」と説明する。
何度も結婚できる「勝ち組」オトコと、一度も結婚できない「負け組」オトコの間で結婚格差が広がっているわけだ。
同居しているのに親の介護には冷たい
海外メディアがいぶかしむ理由がもう一つある。独身者が自立して1人世帯でいると、経済的に非効率だからだ。
光熱費や家賃、食料品のまとめ買いなどを考えると、1人世帯は2人世帯より約1.4倍コストがかかる。「結婚したほうが得なのに、なぜ?」というわけだ。そこで、天野さんは独身者の世帯構造を国勢調査や、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」などを元に分析した。
すると、「60代近くまで親に依存する」という驚くべき独身男女の実態が浮かび上がってきた。
図表4、5を見てほしい。独身の男女が年代別にどのような世帯に住んでいるかをまとめた図表だ。表の中で一番下の項目「親・親族との同居」の数字が、実質的に「実家で暮らしている」割合だ。20代~40代の独身男性は、「両親のみ」、または「母親のみ」との同居という「親子密着世帯」が半数を超え、祖父母も含めた「実家で暮らしている」割合は6割以上で推移している。
両親が70代を超える50代になって5割を切り(49.9%)、両親が他界、または施設に入る60代になって、ようやく実家で同居する割合が3割を切る(28.1%)。
こうした傾向は独身女性の場合も同じだが、男性よりも実家で同居する割合が各年代で高い。天野さんは「50代から60代にかけて、親がいなくなるなど同居できなくなり、しかたなく慣れない自立を始める姿が見てとれます」と語る。
意外だったのは、男女ともに50代以降は親の介護が発生するため、実家に同居する割合が増えるのではないかと予想したのに、むしろ減少したことだ。その代わり、兄弟姉妹との同居や一人暮らしが増えている=図表4、5参照。その理由について、レポートでは「親が施設に入る・他界するから」と推測しているが、「親に依存してきた独身者だからこそ、逆に親の面倒をみる介護はしたがらない」と考えられないのだろうか。
天野さんはこう語った。
「私見ですが、実家暮らしの独身者は、同居の多大なメリットがあっても、それに対して親には感謝はしていないと考えられます。当然だという気持ち、もしくは感謝など考えたこともないでしょう。だから、年老いた親が自分にとって使いものにならなくなったら、いらないのです」
「長期子どもポジション・キープ」というメリット
これほど実家に依存する独身者が多いと、天野さんは「これでは初老になるまで、パートナー(結婚相手)を持つメリットなど感じられなくなるのではないか」と心配する。
結婚のメリットの一つに、経済的コストが2人世帯になると7割に減ることがあげられるが、両親と3人世帯なら1人当たり6割に、祖父母と同居の5人世帯なら5割に減るからだ。
天野さんはさらにこう指摘する。
「おまけに掃除や料理は母親、近所付き合いも母親、不動産コストはゼロ、父親のクルマが足代わり......と、実家には結婚メリットでは得難いメリットがたくさんあります。経済的にリーズナブルなうえに、子ども時代から長年親しんだ習慣から離れなくてもいい『長期子どもポジション・キープ』というメリットです。こうなると独身者が、親を超える大金持ちとの結婚以外メリットなし、という思考になっても仕方がないでしょう」
しかし、当の独身者もいつまでもこのままでいいとは思っていない。「おひとり様の老後」に不安を抱えている。明治安田生活福祉研究所の「35~54歳の結婚意識に関する調査」によると、未婚者に「一生独身でいることを決意・覚悟した理由」を聞くと、男性の4割、女性の3割が「結婚が向いていない」と答えた。
その一方で、45歳以上の未婚者は「やっぱり結婚したい」と考えるようになった人が多く、その理由を男性の4割、女性の5割が「老後1人で生活することが不安だ」と答えている。
天野さんは、こう訴える。
「調査をみると、独身男女が『結婚が向いていない』『結婚のメリットがわからない』と答えている背景の一つに、男性の6割超、女性の7割超が『身内だけのリーズナブルで気楽な暮らし』があると考えてよいと思います。ここは独身者本人だけでなく、成人しても実家に住む独身の子を抱える親御さんにぜひ思い出してほしい言葉があります。『可愛い子には旅をさせよ』です」
実家に居候する独身者の増加に、私たちはどう対応したらよいだろうか。後編では、天野馨南子さんへのインタビューを紹介する。(福田和郎)
●プロフィール
天野馨南子(あまの・かなこ)
ニッセイ基礎研究所・生活研究部研究員。1995年日本生命保険入社、99年ニッセイ基礎研究所に出向。内閣府の「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査」企画・分析会議委員、愛媛県法人会と松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバーなどを歴任。真の日本の女性活躍推進・少子化対策のあり方を考察・提言を発信している。