労働者派遣事業者の倒産件数が2017年後半以降、増加傾向にある。
帝国データバンクの「労働者派遣業者の倒産動向調査」(負債1000万円以上、個人事業者を含む、法的整理を集計)によると、2018年1~8月の労働者派遣事業者の倒産件数は、前年同期と比べて2.2%増の46件だった。9月11日の発表。ただ、負債総額は49.6%減の21億5600万円と大幅に減少した。
負債規模「5000万円未満」の小規模倒産が高止まり
2018年1~8月の労働者派遣事業者の倒産件数は、3年ぶりに増加に転じた前年を上回るペースで推移している。
2008年以降に発生した労働者派遣事業者の758 件の倒産を、年別・負債規模別にみると、18 年(1~8 月)は「5000 万円未満」が全体の69.6%の32件を占め、最多。15 年以降、小規模事業者(負債5000 万円未満)の倒産が増加傾向にあり、17年に初めて構成比が70%を超えた。
2018 年も同水準となっており、中小・零細企業の業況が悪化して倒産件数が高止まりしているようすがうかがえる。
倒産件数が増加傾向にある要因を、帝国データバンクは「人手不足の深刻化」としている。厚生労働省が8月31日に発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は、1.63倍と44年ぶりの高水準となった。雇用環境が改善する一方で、その影響から求職者の数が減ったことで、有効求人倍率の上昇につながったものとみている。
同社によると、2018年上半期(1~6月)の人手不足を要因とした倒産は、前年同期と比べて42.9%増の70 件と、3 年連続で前年同期を上回った。
8 月の「労働者派遣業」の景気DIは59.0と全体(49.5)より10ポイント近く高い。人手不足倒産の増加や高水準が続く有効求人倍率などからも、労働派遣業に対する需要が高まっているのは間違いなく、景気DIの高さもそれを裏付けている。
一方、雇用環境が改善して求職者が減少する中で、派遣スタッフの囲い込みなどコストが増加していることも予想される。人手不足により、売り手市場が加速。派遣スタッフの確保などで、中堅・大手の事業者と零細事業者との格差が拡大している可能性があり、今後も中小・零細企業を中心に、労働者派遣事業者の倒産は増加傾向で推移していくとみている。
帝国データバンク情報部の山口亮氏は、「人手不足を背景に需要が拡大する一方、派遣業者の人材確保が難しくなっている」と話す。
改正労働派遣法の施行で、ますます倒産が増えるかも?
こうした労働派遣事業者の厳しい経営状況に追い討ちをかけたのが、労働者派遣法の改正だ。
これまで派遣事業には、「一般労働者派遣事業」(一般派遣)と「特定労働者派遣事業」(特定派遣)の二つが存在した。
一般派遣は、スタッフとして登録後、派遣先が見つかった時だけ雇用契約を結んで就労する。仕事がある時だけ働くことになるので、日雇いや短期の派遣が可能。派遣先の仕事が終了すれば、その時点で雇用関係も終了するので、その後の給料は発生しない。
ただ、厚生労働省(労働局)への届出から許可までの期間が、受理から2~3か月かかったり、事務所の現地調査があったり、また派遣元責任者講習が受講済みであるほか、許可要件に資産・現預金、事務所の広さなど、開業の条件は厳しい。
一方、特定派遣は、常時雇用される労働者、期間の定めのない雇用契約を結んでいる労働者を派遣する。派遣先の仕事が終了したからといって雇用関係がなくなるわけでなく、自社に戻して就労させるか、新たな派遣先を探して就労させるなど、派遣事業者の負担は小さくない。常時雇用しているため、給料も発生する。
専門的な知識や能力を有する技術者が多く在籍する傾向にあるのが特徴。ただ、開業の条件は緩く、労働局に届け出るだけで済む。
ところが、これが2015年の派遣法改正に伴い、「一般派遣」(労働者派遣事業)に一本化されることになった。
そのため、特定派遣の事業者は「2018年9月29日」までに、一般派遣に切り替える必要がある。一般派遣の認可は届け出の受理から2~3か月かかることから、10月1日以降も派遣事業を継続しようとすると、少なくとも8月初めには届け出ていないと、営業できなくなる可能性が高い。そのまま派遣業の看板を下ろしたり、請負業に転換したりする派遣事業者は少なくないようだ。
前出の帝国データバンクの山口亮氏は、「法改正の影響は間違いなくあると思いますが、現時点では、それが原因で倒産が増えているとは言い難いですね。おそらく、(影響は)10月以降に出てくるのでしょう」と話している。