【連載】事業承継のサプリメント(その4)法律は冷酷...... 相続で社長の座を失うことに(湊信明)

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遺言がモノを言う!

1 株式は遺言がない限り、相続人間の「準共有」(複数の人が共同で所有権以外の財産権を所有すること)となる。


(1) 遺言がないと、後継者が会社支配権を取得できない可能性も!

   この事例で、長男は、父親が死亡した時に、全株式である200株のうち、その40%に当たる80株を有していました。そして、長男は4分の1の法定相続分を有していますから、父親の遺産である株式120株のうち、4分の1に当たる30株を相続でき、過半数の株式(80株+30株=110株)を取得して、会社支配権を獲得できるようにも思えます。

   しかしながら、株式の相続が発生した場合、遺言がない限り、遺産分割協議により誰が株式を相続するのか決める必要があり、それが決まるまでは、株式は相続人間で準共有となるとされています。各相続人の法定相続分に応じて当然に分割されるわけではないのです。

   長男が、株式は相続が開始されると、法定相続分にしたがって当然に分割されるものと思い込んでいたのですが、安易な思い込みにより長男は会社の支配権を失う結果となってしまいました。

(2) 準共有の株式全株の株主権は、持分の多数決で決まる!

   各相続人は、遺産となる株式全体に対し、その法定相続分に応じた持分を有するに過ぎず、その株主権の行使方法については、持分の多数決で決せられます。

   父親の遺産である株式120株についても、母親、長男、次男とで、その法定相続分に応じ、2:1:1の持分を有する準共有状態になりますから、母親と次男が結託すれば、4分の1の持分しかない長男は多数決に敗れ、120株全株について株主権を行使できないことになります。

   そうすると、長男は80株しか株式を有していませんから、株主総会を開いても、120株の議決権を行使できる母親・次男連合に敗れ、会社支配権を喪失することになります。

   この状況を打開するためには、長男が母親と次男との遺産分割協議で、株式の過半数を取得できるよう交渉するしかないのですが、母親・次男も長男の窮状につけ込んで、株式を評価額よりはるかに高い価格で買い取るよう求めてくる可能性もあり、協議が難航することは必至です。

(3) 後継者が全株式の過半数を取得できる遺言を!

   このような事態を避けるには、父親は、生前、長男に全株式の過半数以上(できれば3分の2以上)を譲渡しておくか、死後、長男が全株式の過半数を取得できるよう、遺言しておくべきだったと言えます。遺言が遺されていれば、株式の準共有状態にはならず、遺言のとおりに相続されます(ただし、他の相続人の遺留分対策をしておく必要があります)。

   なお、遺言するには、遺言者に遺言内容を理解できるだけの意思能力(遺言能力)が必要ですが、仮に認知症が発症し、後見開始審判を経た後でも、その事理弁識能力が回復したときに、医師2人以上の立ち会いのもとに遺言をすることはできるとされています(民法973 条)。この場合でも、すぐに諦めることはありませんから、後のトラブルを避けるためにも、できる限り、遺言を遺すよう努力していただきたいと思います。

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