前回のその61で、公共施設に目立つ「外来語風」「和製英語風」の名前をやり玉に挙げさせてもらったが、JRの用語にもその種のものが多い。ついては、矛先をJRに変えての続編である。
まずは「グリーン車」だけど、1969年に「一等車」に代わる名前として登場した。その由来については、一等車の車体側面に淡い緑色の帯があったからだとか、いくつかの説がある。いずれにしろ、意味のはっきりしない呼び名だが、すっかり世間になじんでしまった感がある。
知っていました? 「GRAN CLASS」の意味
だけど、英語で「GREEN CAR」と書いたら、日本に初めて来た外国人にも意味が通じるだろうか。「FIRST CLASS」とでも言い換えない限り、通じるはずがない。グリーン車は、日本人でも初めて聞いたら、意味が分からないだろう。
ちなみに、中国ではグリーン車にあたるのは「軟座車」、普通車は「硬座車」である。軟らかい座席の車両と硬い座席の車両。漢字さえ知っていれば、意味はすぐに分かる。寝台車には「軟臥」と「硬臥」があるが、JRの「A寝台」「B寝台」より意味は分かりやすい。名前に関しては、JRよりもずっと乗客のことを考えているみたいである。
グリーン車というのは日本語らしくなくて、どうも気に食わないと思っていたら、次には「グランクラス(GRAN CLASS)」なるものが現れた。「大きな」という意味のフランス語「GRAND」と英語の「CLASS」との造語とか。グリーン車より上等の車両だそうだが、なんで造語までして、JRはそんなに外来語風がいいのか......
「フルムーン=熟年夫婦」なのか?
「フルムーン夫婦グリーンパス」というのがある。熟年あるいは老年夫婦を対象にした企画で、グリーン車が乗り放題とのことだ。「フルムーン」とは「満月」の意味だが、それがなんで熟年夫婦や老年夫婦を指すのだろうか。
「レールゴーサービス」というのもあるが、内容がよく分からない。聞いてみると、なんのことはない。「手荷物輸送」のことをいうらしい。昔、チェックあるいはチケットという英語から来たのか、「チッキ」なるサービスがあり、手荷物が多いと、それを預かって乗車駅から下車駅まで列車で運んでくれた。レールゴーサービスはこのチッキに似たサービスのようだ。そうであれば、呼び名は「手荷物輸送サービス」でも、いいのではないだろうか。
小説家で作家、劇作家だった井上ひさしさんは生前、「外来語風の和製英語を連発して喜んでいる三馬鹿は、お役所と旧国鉄、それに軽薄な企業と昔から相場が決まっている」と怒っていた。
「旧国鉄」とは言うまでもなく、「JR」という民間企業である。井上ひさしさんが嫌った「軽薄な企業」にはなってほしくないのである。(岩城元)