【連載】事業承継のサプリメント(その3)父の「感謝の言葉」だけでは報われない(湊信明)

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   会社経営は山あり谷あり。「父の代に業績が悪かった会社を、後を継いだ長男が立て直した」――そんな話も、よく耳にします。とはいえ相続の場面では、会社の事業承継の仕方を誤ると、その努力すらムダになってしまう可能性があります。

   先代からの「感謝の言葉」はうれしいですが、それよりもしっかりした事業承継の手続きこそ大事なのです。

  • バトンがうまくわたらない……
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株価ゼロから2000万円に引き上げた長男の努力

   私の父は、最後の5年間はかなり進行した認知症を患って、先日、老衰により亡くなりました。相続人は、長男の私と弟の2人です。

   父は、若い頃に会社を立ち上げて経営してきましたが、15年ほど前に、経営危機に陥ったことから、私も経営に参加することになりました。このとき父は「私はもう年だから、ゆくゆくは会社のことはお前に任せる」と言い、当時、債務超過で株価もゼロだったので、すべての株式を私に贈与してくれました。

   当時、父は、経営改善を図るため、個人資産を会社に貸し付けておりましたので、私は経営を引き継いだ後も、会社に余裕があるときに少しずつ父に返済しておりました。亡くなったときの父からの会社の借入金残額は3000万円でした。

   私は、父から経営を引き継いだ後は、猛然と経営改善に邁進し、お陰様でV字回復することができ、父が亡くなったときの株式価値は2000万円相当となっておりました。

   先日、父の遺産分割について弟と話したら、私が無償で譲り受けた株式は、特別受益だから相続財産に持ち戻せ、会社への貸付金3000万円の2分の1は自分(次男)のものだから支払えと要求しています。

   この会社は、私が命がけで復活させてきた会社です。父は私が熱心に会社経営をしていたことに感謝してくれており、ことあるごとに「お前は本当によくやってくれた。これからも会社のことをよろしく頼む」と言ってくれていた。

   私は、弟の要求に到底納得することができません。どうしたらよいのでしょうか?

1 借入金残額3000万円の要求について

   相談者の父親の会社に対する3000万円の貸付金は金銭債権であり、可分債権(分けられる権利がある債権)ですから、遺産分割を経ずとも、当然にそれぞれの共同相続人の相続分に応じて直接承継されることになります。したがって、次男から相続分である2分の1に相当する1500万円の支払いを要求されれば、会社としてはこれを拒むことはできないことになってしまいます。

   本件では、かなり前に父親が会社に貸し付けたものであり、場合によっては会社が消滅時効を主張して支払いを拒むということもあり得ますが、残念なことに、会社に余裕があるときに父親に返済していたというのですから、時効の中断事由としての債務承認に該当し、消滅時効の主張は許されません。

   それでは、父親や相続者としては、そのようなことにならないようにするために、どのようなことをしておけばよかったのでしょうか?

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