【IEEIだより】福島レポート 復興のカタチ 日々を暮らし続ける「力」のスゴさ(越智小枝)

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ノー・モア・ヒーロー

   また、浜通りで開業されるある医師は、原発事故の直後、「まず診療所で宴会を開いた」と笑います。相馬市では500名近くが津波災害で亡くなっています。命を失った知り合いを悼みつつ、昼間は避難所の救護にも回るなか、本来は騒ぐような気分ではなかったと思います。

   しかし、町じゅうが放射能の不安に駆られている時に、とにかく明かりが点いていること、普通に暮らしていることが一番大切だと感じた、とのことでした。

   災害とは、いうなれば皆に降りかかる大きな暴力です。その暴力に屈することなく普通の暮らしに戻ろうとする力。そのような力を持つ人々が存在する社会こそが「災害に強い社会」と言えるのではないでしょうか。

   そう考えれば、有事に特別な活動を行うことだけが支援や復興ではない、ということが見えてきます。崩れなかった道路、倒れなかった建物、営業を続けた店やサービス...... 有事に日常を続けたすべてのものが、被災地を、被災者を今も救っています。

   震災の後、ハーバード・ビジネス・レビュー※で紹介されたのも、福島第一原発ではなくメルトダウンを「起こさなかった」第二原発でした。

   その著者の一人、カスト氏は、

「ノー・モア・ヒーロー(英雄はいらない)」

と言っています。

   災害時には、身を挺して人々を救った人々のような、ヒーロー(ヒロイン)がよく報道されます。しかし、災害発生時に、このような際立った個人がいなくても通常の機能を保てるような地域社会をつくることこそが、本来の私たちの役割なのではないでしょうか。

※参考文献:ランジェイ・ガラディ、チャールズ・カスト、シャーロット・クロンティリス.不測の事態で発揮されたセンスメーキング:そのとき、福島第二原発で何があったか(Harvard Business Review, July-August 2014)

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