米国株が好調を維持しています。
2018年2月に相場の急変があり、しばらく乱高下する時期もありましたが、ダウで言えば2万3000ドル台半ばでしっかりサポートされ、2万6000ドル台に乗せてきました。高値の2万6161ドルにもう少しで届きます。他の指標、SP500やナスダックは、すでに高値を更新しています。
中国株は軟調
一方、中国株は軟調です。欧州や日本株は、悪くはないのですが、米国株ほどのパフォーマンスではありません。その他、商品市況もこのところ軟調になってきています。
資産市場の状況だけを見ると、まさに米国株(米国)一人勝ちの状況です。しかし、この状況はいつまで続くのでしょうか。
こうした状況を見ると、市場は「貿易戦争は米国に有利に働く」と判断している、と解釈できるのかもしれません。
また、我々のような金融関係者がよく使う言い回しですが、これまでのFRB(米連邦準備制度理事会)の政策が極めて緩和的であったので、依然として「じゃぶじゃぶのマネー」が米国市場を支えている状況であり、今後も米国の金融政策は必要なレベルより緩和的な状況が続くと市場が想定しているのかもしれません。
しかし、貿易戦争は一方だけに有利ということはないはずです。
お互いに関税を引き上げていけば、双方に打撃があります。また、グローバル化が進んだ現状ではサプライチェーンが張り巡らされ、米国の関税引き上げが、巡り巡って米国経済そのものに打撃を与える可能性も十分考えられます。
米国株の強さと貿易戦争の関係
それでも米国株が堅調ということは、どういう要因が考えられるのでしょうか――。
私自身、答えは意外に簡単なところにあるのではないかと思っています。まず、2017年に実現したトランプ税制改革の影響です。法人税が35%から21%へと劇的に引き下げられたので、その分だけ米国企業の業績が改善しました。
そしてもう一つ、影響が見逃せないのが、いわゆる「リパトリ減税」です。
これは米国企業が海外で得た利益を米国に還流させる際、これまでは35%の法人税がかかっていました。そのため、米国企業は高い税金を回避するために海外に利益を滞留させていましたが、これが極めて低い税率で米国に還流させることができるようになりました。
米国企業の海外滞留利益は約3兆ドル(約330兆円)で、これが米国に戻ってきます。その一方で、企業がこの金額をどのように使うかは、なかなか難しい問題です。一部は給与、一部は設備投資や研究開発費に回りますが、それでも膨大な使い切れない金額が残ります。その時、米企業経営者ならば、当然選択肢の一番に来るのは「自社株買い」です。
今年、この自社株買いは50兆円を超えると想定されていましたが、一部には100兆円近い規模になるのではないかとの市場レポートもあります。これだけの金額が米国の株式市場に流れるとなると、むしろ株価が下がるのが難しいとも言えます。
このところ、どんな悪材料が出ても米国株がしっかりしているのは、貿易戦争で米国が勝つからとか、トランプ政策が正しいから、という理由ではなく、単に自社株買いが大量にあるから強いのではないでしょうか。
ただ、他の資産が下落している時に、米国株だけが上昇しているという状況には違和感もあります。この自社株買いが一巡したとき、米国株の調整が始まるのでしょう。そうなると、おそらくは2019年以降になるのではないかと推測しております。(志摩力男)