「合同会社」という新しい企業の形が急速に広がっていることが、東京商工リサーチが2018年8月20日に発表した「2017年全国新設法人調査」でわかった。
それによると、2017年に全国で新設された法人は13万1981社だが、株式会社など他の法人格が軒並み伸び悩んでいるのに、合同会社は2万7039社と全体の20.5%を占め、じつに5社に1社と、急増ぶりが際立った。合同会社とはいったいどんな会社なのだろうか。
アマゾン、アップル、ワーナー、西友も
合同会社は、米国の「LLC」(Limited Liability Company=有限責任会社)をモデルに、2006年の会社法改正によって生まれた。米国では株式会社と同程度に広まっており、日本でも、アマゾン・ジャパンやApple Japan、ワーナー・ブラザーズ・ジャパン、シスコシステムズ、ボーズなど名だたる外資の日本法人が合同会社の形をとっている。
また、西友も2009年、ウォルマートの子会社になったのを機に合同会社に改組。最近では2018年5月、ゲーム・動画などの総合サイト、DMM.comが株式会社から合同会社に組織変更した。同社ではこの目的について「意思決定の迅速化、事業推進の効率化を図るため」と説明している。
合同会社と株式会社との最も大きな違いは、資金の調達方法。株式会社はさまざまな人(株主)から出資金を集めて事業を行なうが、合同会社は社員自らが資金を持ち寄る。社員は1人1票の議決権があり、役員と平社員が「平等」であることも特徴の1つ。そのため、株式会社でいえば「代表取締役社長」にあたる経営者を「代表社員」と呼ぶ。しかし、それでは重みに欠けることもあって、日本では「CEO」(最高経営責任者)と呼ぶケースが多い。
合同会社の大きなメリットは経営の自由度が高いことだ。株式会社では株主と取締役が分かれ、株主の意思が最優先されるが、合同会社では社員が出資者のため、社員の意思で運営できる。利益配分も株式会社では出資比率に応じるが、合同会社は社員の出資比率の応じることなく、定款で自由に利益配分を決めることができる。これが社員の意欲向上や、事業経営のフットワークを軽くすることにつながるのだ。
設立費用と手続きが簡便、「脱サラ起業」に最適
また、株式会社では役員の任期が決まっているが、合同会社には役員の任期がない。株式会社では決算の公表が義務付けられているが、合同会社はその義務がないし、株主総会を開く必要もない。株式会社と同じように節税できる点も魅力だ。
そのうえ、会社設立時の費用が株式会社より安くすみ、手続きも非常に簡単であるため、「週末起業」や「脱サラ起業」を目指す人にもってこいなのだ。合同会社という会社の形が、いま日本人の多様な働き方を後押ししているといわれている。
ただし、デメリットもある。まだ日本では株式会社ほど一般的ではなく、小規模で閉鎖的なため、信用度が落ちる。また、株式による大規模な資金調達ができないことも難点だ。利益配分が自由であるメリットも、社員同士のトラブルが発生しやすいデメリットと裏返しの関係にある。
東京商工リサーチによると、新設法人に占める合同会社の構成比が、2011年の8.8%から2017年は20.5%と約3倍に増えた。この期間、株式会社が75.5%から69.5%に10ポイントダウンするなど他の法人格が軒並み減少するなか、合同会社は一人勝ちの状態だ。
合同会社を産業別でみると、サービス業がトップで38.7%と全体の4割近くを占める。サービス業は中小・零細企業が中心で、取引相手も一般消費者が多いため、会社形態にさほどこだわらないことが要因とみられる。
一方、業種別でみると、トップは不動産業だが、金融・保険業が2016年の959社から、2017年は1270社(32.4%増)と大幅に増えたことが目立つ。これはFX(外国為替証拠金取引)ブームや、急騰した仮想通貨で利益を得た個人が節税目的もあって合同会社を設立したことが、押し上げの理由とみられる。
サブリース問題と仮想通貨下落で逆風が......
だが最近、合同会社に逆風が吹き始めた。シェアハウスのサブリース問題で銀行の不動産融資は厳しくなっている。また、仮想通貨も不正アクセスによる流出事件を契機に、交換業者への業務改善命令が相次ぎ、相場は乱高下を繰り返している。このため、今後は個人の不動産・仮想通貨への投資意欲が減退し、合同会社の新設数に陰りが出そうだ。
合同会社は他の法人格にはない、手続きが簡便で安く設立でき、経営の意思決定が迅速というメリットがある。さらにそれに加え、合同会社のモデルとなった米国の「LLC」には大きな節税効果のメリットがあった。法人税がなく、出資者の所得税のみが課税される「パススルー課税」だ。日本では見送られたが、開業率アップのために制度の導入を求める声が政府部内にもあるという。
東京商工リサーチでは、「パススルー課税は検討課題かもしれないが、税金対策での乱立は本末転倒だろう。合同会社のメリットが浸透すれば、節税効果に依存せず、資金力が乏しくても創業支援の後押しを受け、新規立ち上げに活用される可能性が残っている。今後、合同会社はすそ野を広げ、地域経済の活性化への貢献が求められている」としている。