「『営業』は必ず君の武器になる」(日本実業出版社刊)という本を、2018年8月30日に出版します。以前に書かせていただいた本を、出版社から声がかかりリメイクさせていただきました。
「営業部」に配属されて不安を持つ方々に対する仕事の心構え、スキルを紹介した1冊です。ちなみに、意識したのは「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」。企業家を目指す息子へ宛てて書いた手紙をまとめたもので、実社会への出発、企業での人間関係、部下とのコミュニケーション、友情、結婚など、ビジネスマンが人生で遭遇するあらゆる場面に言及しています。
自分の営業時代のことを振り返りながら営業部で悩み、日々をすごしている人に何か役に立てたら...との想いで書かせていただきました。その一部をここで紹介させていただきます。
「性能アップ」だけでは決裁はもらえない
「いいものなのに、なぜ売れないんだろう」――。そんな疑問にぶちあたることは、営業をやっていると、少なからずあるものです。自分のこれまでの営業経験からして思うのですが、「いいものだから買ってください」は正論のようで意外と通じない論理=ロジックです。その理由はお客様とは「いいものであっても、他の誰かが使っていないと不安」と感じるものだからです。
日本のお客様は、何か買う時に周囲の目を気にします。そのため、購買するタイミングが一緒になりがちです。こうした動きを「護送船団方式」とか言います。このようにお客様には、「誰よりも先に買うことに対して、なぜか躊躇する意識」が潜在的にあるのです。
逆に言えば、「何処かの雑誌で掲載されていた人気商品」を買うとうれしく感じます。自分の目でいいと判断するより、相対的な評価が得られていないものは不安なままなのです。つまり、「商品として魅力は周囲における評判」なのです。
最近は個人消費においては個性が出て「人と違うデザインの方が素敵」と感じる人も増えてきましたが、それはあくまで個人消費での話。会社が何か買うとなると、相変わらず護送船団方式が主流です。社内で買うためには決裁が必要です。面倒でも理由が明確にないと決済ができないのです。
ちなみに、一番簡単な理由は、今より安くなること。これが明確なら決裁は意外と簡単で、人間関係がきっちりと構築できていなくても、売れてしまう場合があります。ただし、そうでなければ、決裁をもらうのは面倒です。ただ「性能が上がりました」とだけ言われても、相手は「『今使っているもので十分』と言われるから、決裁をもらうのは難しい」と感じるでしょう。
国内での実績はあるの?
そんな苦労を痛感している営業を1人紹介しましょう。
システム会社に勤務する和田さんは海外からライセンスを受けたばかりの最新システムをお客様に紹介したところ、「このシステムは何社くらい導入しているの?」と質問された。そこで、和田さんは「はい、米国では3000社以上の導入実績があります。ただ、国内では今月から営業が開始になったばかりなので実績はありません」と回答。米国の実績があるので安心です...... と伝えたかったわけです。
しかし、
「そうですか。うちの会社は石橋を叩いて渡る社風なので、国内である程度実績がないと検討はできませんね。改めて話は聞かせてください」
と、断られました。
その後も営業に回りましたが、どこも判をついたように、
「国内での実績は何社ありますか?」
「同業での導入実績を教えて欲しい」
と、同じ質問をしてきては、「時期尚早だね。ある程度実績が出たら教えてください」と言われて追い返されてしまいます。
海外ではかなりの優れものなので、自信をもってオススメしているのに、お客様としては、「国内実績がない=不安」としか思えないのでしょう。
「これだけいい製品なのに信用してくれないとは悲しい」
と、途方にくれる和田さん。営業していて、よく遭遇するシーンじゃないでしょうか。
意思決定の背中を押す一言
ここで知っておいていてほしいのは、お客様は
・新しい高性能の製品
・海外の最新鋭の技術
だったら、飛びつくとは限りません。むしろ逆で、慎重に様子をみてしまうだけです。その理由は、「後悔すること」が怖いからです。
「新しいものに飛びついてみたら、まだ改良中で不具合ばかり」
「使ってみたら、話と違っていた。おかげで上司から叱られた」
こんなふうに、目新しい商品の注文したときに、後悔する可能性がわずかでもあるなら「避けよう」と防衛本能が働くのです。お客様がこの判断基準を持っていることを忘れてはいけません。
目新しい商品・サービスをどうしても売り込みたいなら、
「今すぐ買っても後悔は絶対にない」
という根拠を提示するのがベストです。
でも、それは断言するのは難しいものがあります。そこで、こんな方法はいかがでしょうか――。
「同じ業界で複数のお客様が検討をされています」
「この地域で相当な法人に興味をもっていただいています」
と、お客様の周辺にいる人の情報を提供してみるのです。すると、おそらく、
1.ライバルに負けることはできないから検討する
2.ライバルが導入するなら、その様子をみて検討する
3.ライバルが導入するなら、別のシステムを検討する
と、3パターンのどれかで反応してくることになるでしょう。
できれば1の反応になるといいですよね。
いずれにしても、「いいものだから買ってください」というのは、お客様が意思決定するには決して十分ではありません。背中を押すような決定要因が必要です。それを提供できることこそ、売れる営業の極意なのです。(高城幸司)