地方こそイノベーションの担い手になる
竹中さん「若手起業家の十河さん、シンガポールでは何をしているのですか? また、海外から日本を見てどう思いますか」
十河宏輔さん「AIの技術を使い、マーケティングや、企業とインフルエンサー(購買意思決定に影響を与える人)とのマッチング事業をしています。社員はミレニアル世代の若い人ばかり。テクノロジーの進化がすさまじく早いので、常に新しいことをやり続けて成長しないと追いついていけない。起業して2年ちょっとですが、事業モデルが常に変わっています。
7年間海外に居て、日本は浦島太郎状態ですが、ユニークな点がメチャメチャ多い。たとえば、新卒一括採用がそうです。海外ではインターシップから直接入社するから、ほとんどない。そもそも会社の1年後の業績など予測もできないし、事業も変化するので、新卒者を一括で採用するのはリスクが高い。p>
それに僕らはベンチャーなので、社員は全員どんどん働いて自分も成長したいと思っている。僕が別に強要しなくても、働くことに喜びを感じている連中ばかりです。残業しているという意識はないのに、日本に帰ってくると、『働き過ぎるのはよくない』と言われます」
竹中さん「日本では過労死の問題が深刻で、働き過ぎを何とかしないというのは事実ですが、1日8時間労働でベンチャーを成功させることは絶対できない。そこをどうするか、議論するべきでしょう。富田さん、地方から見て働き方改革をどう思いますか?」
富田能成さん「私が町長を務める埼玉県横瀬町は人口8370人、3300世帯。小学校は一つしかなく、児童の名札を見ると、父親の顔が思い浮かぶ。そんな規模の小さな町だからこそ、イノベーションの大切な担い手になると確信しています。
なぜなら、地方は人口減少と高齢化が進んでいる。わが町の人口も20年後には5000人になり、3軒に1軒が空き家になります。町を変えていかなければという危機感が、全員で共有できているのが強みです。
町なかの資源だけでは足りないので、外から新しいものを入れないと改革できない。たとえば、携帯電話の普及も固定電話があった所よりなかった所のほうが早い。何もない地方のほうがイノベーションを起こしやすいのです」
竹中さん「富田さん、本当に地方に危機感がありますか? 地方交付税に安泰して、何もしない自治体は多いし、地方がイノベーションを阻害している例もあります。たとえば、民泊なんか京都市が認めないわけです」
富田さん「地方の危機感には分水嶺があり、『消滅可能性都市』に指定されるかどうかがカギです。横瀬町も2014年に指定されてから、町民の意識がガラリと変わりました。イノベーションを進めるうえで苦労するのは、住民間の情報格差です。インターネットに触れるか触れないかで、はっきり断層がある。ネットにふれない人にいかに危機感を訴えるかが大事です。小さな町ほど、住民のコンセンサスが得やすく、情報の入れようで劇的な変化が起こります」
世耕さん「富田さんのいうとおり、地方はこれから第4次産業革命のチャンスです。東京の日本橋で自動運転車やドローンの宅配をテストするのは難しいが、人が少ない地方では何の問題もない。しかも、高齢化で買い物が難しく、タクシーやバスがないのでニーズがある。地方は貴重な実践の場になります」