肝心なのは「整えられた」組織運営 社長の独断経営では株式上場はムリ!(大関暁夫)

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   転職希望を聞いて、私の知り合いのIT系企業C社を紹介し、先月から新天地で働き始めたNさん。約1か月半経って、転職後の様子を聞いてみようと会食に誘ってみました。

   Nさんは新卒で大手電機メーカーの事務職として約10年勤務。その後、大手IT系企業で契約社員として2年ほど勤務していました。独立、起業を考えて契約社員の道を選び準備を進めていたものの、時期尚早との判断に至り、異なる環境での経験を積みたいとITベンチャー系企業での再就職を希望していました。

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意思決定のプロセスがあいまい

   一方、私が紹介したC社は40代の社長が率いるIT系マーケティング関連のベンチャー企業で、数年後の株式上場を目指して業績面では順調な成長を続けています。

   資本のメインはオーナー系ではあるものの、大手資本が一部入って役員も派遣されており、大企業組織に馴染んでいるNさんにはオーナー色が強すぎないC社の社風は合うのではないかと思いご紹介した次第です。

   しかしながら、Nさんの転職1か月半後の感想は、「いやー、予想していたのとは全然違いけっこう面食らっています」という意外な一言から始まりました。

   「意思決定プロセスの違いというのか、それに関する社長の立ち位置とか、社員たちの関わり方や意識の半端さというのでしょうか。けっこう面食らっています。

とにかく決定プロセスが不安定です。運営方針にかかわる重要な事柄が担当役員の一存で決まったかと思えば、さほど重要ではないと思われることでも話が社長まで上げられ、社長からこうしろという指示が出される展開もあったり。何より社員一人ひとりに、意思決定に関わって会社をよりよい方向に持っていこうという意識が低いように感じます」

   Nさんが言うには、これまで自分が見てきた大手企業は、意思決定プロセスが明確で、自分たちの意見を採用してもらうにはどうすればいいのかがわかりやすかったのだと。「社長や役員はじめ幹部社員の意思決定のプロセス上での立ち位置が明確でしたし、それを受けて社員一人ひとりが、たとえ小さ力でも自分の意見が組織改善に反映される道筋が見えていることで、モラールアップがはかれていたように思う」とのことでした。

社長独断から合議制への移行

   C社が上場に向けて、組織運営についてもさまざまな改善努力をしているということを、これまで何度となく同社の社長から聞いていただけに、Nさんの転職後1か月半での第一印象はちょっと意外でした。そこで、この話を社長に直接ぶつけてみることにしました。

   「それは耳が痛いです。じつは上場に向けて組織整備をしていく中で、組織の意思決定を社長の独断先行型から合議制に移行していくべきと、役員を受け入れている株主の大手企業から言われまして。

意思決定会議やら決裁権限やらをしっかりさせるなど、昨年あたりから徐々に変えてきてはいますが、なかなかうまく機能しないというのが実感です。いきなりこれまでの、社長集約型の意思決定のやり方を変えるのは難しいです。私がこの改革に取り組んでいて思うのは、正直この体制づくりが本当に必要なのか、経営者さえしっかりしていればいいのじゃないか、ということですね。

大企業にいたNさんが現状に違和感を覚えたのであるなら、むしろ前のやり方に戻したほうがいいかと思いますね」

   意思決定に多くの社員の考えを反映させるというのは、組織運営に多様性を持たせるとともに、意思決定を社長に集中させることのリスクを分散させるという観点からも必要とされることです。

業績を取り繕っても上場はできない

   企業のガバナンス強化が問われる昨今においては、上場すれば社長一人に決定権限が集中するやり方では株主の理解を得にくくなるでしょうし、後継者育成の観点からも権限移譲や合議制への移行という流れは取り入れざるを得ないという状況に直面するのは想像に難くないところです。

   C社の株主である大手企業からの役員が「独断先行型から合議制に移行せよ」と言っているのは、そんな意味合いがあるのだと考えられます。

   「ベンチャー経営者の多くは、独創的な技術やビジネスモデルで、業績さえ順調に上がりさえすれば、いつでも上場できるぐらいに思いがちです。ところが15年ほど前のITバブル時代に上場基準を下げたがために、安易に上場したベンチャー企業がガバナンス上で問題を起こし投資家に迷惑をかけるケースも多く出て大変問題になりました。

   上場というのは、地縁、人縁のない人たちから出資を受けて企業経営をすることですから、第三者からの信頼に耐えうる、整えられた組織運営が求められるのです。業績がいい、将来性がある、だけではダメなのです。

上場を考えて前に進むのなら、将来を見据えた組織の強化にもあきらめすに取り組むしかないのです。社員を意思決定のプロセスに上手に組み込むことは、組織の活力向上にもなりますから、Nさんをぜひ味方にして前に進めてください」

   私の話に社長の表情は複雑でしたが、至ってまじめな方なので恐らく前向きに取り組んでくれることでしょう。Nさんには、大企業勤務経験を活かした社長のアドバイザイリー役をと、お願いしておこうと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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