ワークウェア(作業着)業界に、ブレークを予感させる新しい風が吹いている。それが、「WORK WEAR SUIT (ワークウェアスーツ)」と呼ばれるスーツ型作業着。「スーツを作業着に」というコンセプトのもと、水道工事事業の社内用ユニフォームとして開発された作業着が、会社や業界の枠を超えて、今、大きく注目されている。
このワークウェアスーツを着想し、開発したオアシススタイルウェア(東京都豊島区)の中村有沙(ありさ)社長に話を聞いた。
若手人材の確保狙い、「カッコいいユニフォームにしたいね」
――オアシスグループ傘下のオアシスソリューションの人事担当から、「オアシススタイルウェア」の社長に就任されたとのこと。その経緯について、教えてください。
中村有沙社長「新卒で水道工事やメンテナンス事業を営むオアシスソリューションに入社して4年間、水道工事部門で営業をしていました。会社に人事部がなかったこともあってか、今より離職率も高かったので、グループ代表の関谷(有三氏)に『人事部をつくりましょう』と打診したことで、それから3年間は人事担当として、採用や研修制度を整備してきました。
その一方で、2016年に会社の作業用ユニフォームを刷新するプロジェクトが立ち上がりました。そのプロジェクトがすべての始まりといえると思います。1年後の12月、プロジェクトで開発した、新しいユニフォーム(ワークウェアスーツ)を法人や一般の方々に販売するため、子会社としてオアシススタイルウェアを立ち上げ、同時に社長に就任しました」
――新たな「ワークウェアスーツ」は「女性目線」でつくられたとお聞きしました。どのようなことを意識されたのでしょうか。
中村社長「オアシスソリューションが若手人材の採用に苦戦していたこともあり、『カッコいいユニフォームにしたいね』と話していました。最初は代表自らがプロジェクトを進めていたのですが、なかなか形になるまでに至らず、『女性目線で考えてほしい』と、私が担当することになったんです。
『仕事が終わった後、女性が一緒にデートに行きたくなるような作業着にしてほしい』というのが、代表からの注文でした。女性開発チームで何度も話し合って、たどりついたのは『やっぱりスーツやジャケットを着た人とデートしたいよね』ということに。そこでスーツ型の作業着がつくれないか、ということになりました。試行錯誤を繰り返し、2017年の秋にようやく完成。やった! という達成感というか、メンバーもうれしそうでしたね。さっそく社内でワークウェアスーツを導入。社員がそれを着て現場へ出向いて仕事をするようになると、取引先や、同業者からも問い合わせが来るようになりました」
機能性とデザイン性の両立に腐心
――ワークウェアスーツの開発にあたり、どのようなことが課題でしたか? 最も大変だったことはどのようなことでしょう。
中村社長「課題は、作業着という機能性とスーツのデザイン性の両立でした。そこで、一番気を遣ったのは生地の選定でした。作業着ですので、動きやすい素材であることはもちろん、毎日洗ってもすぐに乾き、アイロンがけがいらないような形状記憶タイプの生地を全国から取り寄せる日々でした。
結果として、スポーツウェア用として使用される生地を採用し、サンプルを何度もつくって現場の職人たちに着てもらいました。『この部分につっぱりがでるのが困る』『ここにポケットがあったほうがいい』『ジッパーの向きは反対がいい』など細かい点までフィードバックしてもらい、その都度修正しました。
デザイン性も重視しつつ、あくまでも作業着で機能性にこだわるというスタンスを守り、完成までに約1年かかりました」
――導入した時の現場の社員の反応はどうでした?
中村社長「じつは、最初は現場からかなりの反対がありました。というのも、ワークウェアスーツの着心地には問題がなかったのですが、『スーツ型』の印象に合わせて、髪型や身だしなみといった点に気を付けなくてはいけないのが面倒だというんです。動きづらい、作業しづらい、といったことを心配していたのですが、そういった声はなかったんですけど......。(笑)
それでも、導入から1、2か月もすると慣れてもきますし、友人や家族など周りから褒められたり、お客様から『さわやかな人が作業してくれて嬉しい』といったお声をいただいたりして、現場スタッフも気持ちがアップしていったようで、今ではワークウェアスーツのほうがいいと言ってくれます」
中国、台湾からも引き合い
――お客様からの反響や現在の販売状況はいかがでしょうか。
中村社長「おかげさまで、想像以上の反響があり、すでに導入いただいた企業もあります。ご購入いただいている業界としては、ビルの設備管理や清掃、メンテナンス会社や、機械や器具などを納品したり設置したりする会社などに興味を持っていただいています。
たとえば、医療器具を納品する会社では、病院に行くのでカッチリとした装いが求められますが、実際には設置などの作業のほうが多かったりするんです。そういった場所に、スーツで訪問して、その先で作業着に着替えていたような職種の方にご好評いただいています。
また、個人のお客様向けはインターネットでのご購入になりますが、現在、アマゾンと自社サイト、婦人靴のショッピングサイトのロコンドで販売しています。法人向けは、どうしても導入までに少しお時間がかかるので、今は個人の方への売り上げのほうが高くなっています。
さらに、最近は『女性用もほしい』といったリクエストをいただき、今年5月には女性用のワークウェアスーツの販売を開始しました。
8月22日からは、従来の2分の1のライト(軽量)モデルの「ワークウェアスーツ」を発売。ユーザーの要望に応えて、よりスタイリッシュなストレートパンツスタイルを加えたほか、カラーバリエーションも従来のネイビーに、新色のブラックの2色で展開します。 また個人向けはこれまでECサイトのみでの販売でしたが、同日からは北海道初の実店舗となる札幌丸井今井での販売を開始します」
――今後の取り組みについてお聞かせください。
中村社長「ワークウェアスーツは今後、色のバリエーションを増やしたり、機能性をアップしたり、個人の方にはデザインでもバリエーションを増やしたりしたいと考えています。
また、工場や百貨店で取り扱いたいといったお問合せを、中国や台湾、韓国などからもいただいており、早い時期での海外展開を視野に入れています。
もともと弊社はアパレルの会社ではなく、現場の声に、忠実につくった『ワークウェアスーツ』であることが支持していただいているストロングポイントだと思いますので、『現場発想』という点にこだわっていきます。
多くのアパレル会社が競合する中で、『スーツ型の作業着といえばオアシススタイルウェア』と言っていただけるよう、今後も取り組んでいきたいと思います」
(聞き手:戸川明美)