前回、このコラムで書いた「ランボルギーニ大好き」な幼なじみのKくん。数年乗ったくらいじゃ価値が落ちるところか、さらに高値で転売できる高級車を披露し、ヴォーーーン!! と地底から鳴り響くようなエンジン音をさせて帰っていった彼であるが、ふだんはいたって真面目なビジネスマンだ。
月に何十万と使える自由なお金のほとんどを、ランボルギーニと株につぎ込んでいる。投資分野でも好成績というから、ハマると徹底的に勉強してマニアになるタイプなのだろう。
子供の頃からの欲望を叶える人生
思えば彼は、小学生の頃から「好きなものにはとことんハマる」タイプであった。
1986年生まれの私たちが小学校低学年の頃は、タミヤという会社の「ミニ四駆」が大ブームを巻き起こしていたが、それにもKくんは全力投球だった。
私からすれば「ミニ四駆」と「ミニカー」の違いも曖昧だが、彼に言わせればまったく違うモノらしい。ミニ四駆は「小型の動力付き自動車模型(プラモデル)」で、モーターが搭載され、びっくりするほどスピードが出る。サイズもミニカーの3倍以上はある。猛スピードでぶつかってきたら、ちょっと転んでケガしてしまうかもしれない。
当時はクラスの半分以上の男子がハマっていたが、Kくんは特にすごかった。自己流に改造を施したマイ・ミニ四駆でスピードを極め、地方都市で開催されたレースでも優勝したほどだ。
Kくんの父親もクルマ好きで、父が念願の高級スポーツカーを手に入れたときは、私も見せてもらった。
スポーツカーを大事そうになでながら、語り合う2人の男子(親子)。仲がよくて、微笑ましい図だった。私の家は厳しくて高額消費とは無縁だったから、余計に「いいなあ」と思った。
卒業文集に書いた「走り屋」の夢
そんなKくんの夢は、峠を走り抜ける「走り屋」。先生に「走り屋っていうのは職業じゃないから、やめなさい」と言われても、卒業文集には「○○のクルマ(←いかにも速そうなヤツ)に乗る走り屋になりたい」と書いてはばからなかった。
理系の大学生になると、アルバイトで貯めた20万円で中古のオンボロ小型車を購入。それを合法な限り改造して、小型車なのに異様なほどスピードの出るオリジナルバージョンに変身させた。
私は10年ほど前に一度乗せてもらったが、Kくんの仕事によってオンボロカーは驚くほどの変貌を遂げていた。大阪から石川まで、普通の人なら頑張っても3時間はかかる道のりを、なんと2時間ちょっとで走り抜けたのである。確か、法定速度は守っていたはず......。
「今からこのクルマで、あのアウディとクラウンを抜くよ~」と言い、オンボロ車でブーーーン!! と2台抜きする瞬間、Kくん(22歳)の目はキラキラ輝いていた。
そして今、彼は32歳。自動車関連の企業に務める高給サラリーマンとなり、ランボルギーニのオーナーになった。休みの日にはサーキットで、ヴォーーン!と思いっきりスピードを出しているという。場所は峠でなくとも、文字どおりの「走り屋」だ。
「正直、女性には理解できない趣味かもしれないけど、クルマはオレの人生なんや」(Kくん)
家族と住むマンションを買うより、乗り心地が最高なランボルギーニを買うことが喜びだから、一生独身でいいそうだ。私も独身主義だから話は合うけれど、正直、彼のようにウン千万の高級車を手に入れるために働こうとは思えない。
「これが私の人生だ」とまで誇れる趣味はないし、手に入れたい高級なモノがない。今欲しいものは、小型のフライパン(IH対応)だ。あと、傷が早く治る絆創膏もほしい。私の欲望は、せいぜいドンキの店内ですべて叶えられてしまう。だから欲望を叶えても、浅い刺激しか生まれない。
それに比べると、彼の欲望は「強度」がすさまじい。「クルマはオレの人生」と言い切り、少年時代から欲しかったクルマを手に入れるために歩むKくんの足跡は、きっと私より深いだろう。
今までは「高級車なんて」と思っていたが、彼の徹底したハマりぶりが心底羨ましくなってきた。糸井重里の名コピーじゃないけれど、今の私は「ほしいものが、ほしいわ。」状態なのである。
いいなあ、高級車。(北条かや)