現状では、限られた人件費を、60歳定年以降の雇用者を現役社員とで奪い合う構図は避けられそうにない。高齢者も現役世代もお金は必要だ。
しかし、問題は賃金だけではない。企業の中では、60歳定年以降の雇用者と現役社員が同じ職場で働くうえでで、さまざまな軋轢が生じている。
上司と部下の関係、ギクシャク
「上司が部下に、部下が上司になる」。60歳定年以降に同じ仕事、同じ部署で雇用を継続すれば、当然起こる事態だ。
「仕事が遣りにくくて仕方がない」――。ある大手製造業の40歳代の課長は、そう言う。「60歳定年後の元上司が、どういう理由かわからないが、自分の課に配属された時には、本当に困惑した。課のメンバーは、課長である自分よりも元上司の顔色を見るようになり、課のチームワークが悪くなった」と嘆く。
一方で、部下となった元上司にしても、自分が仕事を教えた部下に仕えるのには抵抗もあるだろう。このため、その製造業では「60歳定年以降の雇用者については、部署転換が原則」という。
しかし、「それでも、現役の幹部からは先輩社員を部下として受け入れるには抵抗があるという声は多い。また、受け入れることになる部署の管理職は、なるべく過去に同じ職場だったことがないように調整するのに、大変な労力がかかる」と、この製造業の人事担当者は指摘する。
60歳定年以降の継続雇用に対する難しさは、待遇面にもある。前出の人事担当者は、「60歳定年以降の雇用者の賃金をどの程度に設定するかは、現役社員とのバランスで非常に重要。だが、それよりも評価基準をどうするのか、賃上げをする、しないのほうが、より重要な問題になる」という。
「人事評価基準は、直接的に賃金に結びつくので、現役社員との評価のバランスが難しい。半面、60歳定年以降の雇用者は評価の対象外で、賃上げの対象にもならないと決めてしまえば、仕事に対するモチベーションは下がり、戦力としては期待できなくなる」と、人事担当者は漏らす。
こうした点は、確かに骨太の方針に示されたように、「高齢者は健康面や意欲、能力などの面で個人差が存在するという高齢者雇用の多様性を踏まえ、一律の処遇でなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築する」必要がありそうだ。