政府は2018年6月15日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2018」(骨太の方針)で高齢者雇用の促進を打ち出した。
だが、高齢者雇用を普及させるのは、簡単な問題でははい。そこで、高齢者雇用を巡る問題をさまざまな角度から、3回にわたって取り上げてみたい。
同じ仕事を継続、なのに給料半減の現実
骨太の方針では、「65歳以上の継続雇用年齢の引上げに向けた環境整備」として、「年齢による画一的な考え方を見直し、すべての世代の人々が希望に応じて意欲・能力を生かして活躍できるエイジフリー社会を目指す」との理想を掲げた。
そのうえで、高齢者は健康面や意欲、能力などの面で個人差が存在するという高齢者雇用の多様性を踏まえ、「一律の処遇でなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築する。このため、高齢者に係る賃金制度や能力評価制度の構築に取り組む企業に対し、その整備費用を補助する」方針を打ち出した。
確かに、高齢者雇用のための賃金体系には大きな問題が含まれている。だからといって、政府が打ち出したように、高齢者への賃金制度や能力評価制度を構築して高齢者雇用を進めれば、「補助金を出しますよ」といった簡単な話ではない。
明治安田生活福祉研究所によると、役職定年で全体の9割以上の人が年収減となり、全体の約4割の人が年収50%未満、つまり半分以下に減少する。同研究所のアンケート調査によると、役職定年に伴い年収が下がった人のうちの約6割についてモチベーションが下がり、このうち2~3割の人については、「かなり下がった」と回答している。
つまり、高齢者雇用の「カギ」を握っているのは、「賃金問題」であることは間違いない。多くの企業では60歳定年以降の雇用に当たって、同じ仕事を継続するケースが多い。これは、「これまでの経験とノウハウを活用したい」という企業側と「慣れた仕事を続けたい」とする高齢者側の思惑が一致するからだ。
しかし、同じ仕事を継続しているにも関わらず、60歳定年以降の給与が半分に満たなければ、「モチベーションは低下し、仕事に対する熱意は失われ、いずれは退職することになる」(大手商社の人事担当者)のは必至だ。
それだけではない。60歳定年以降の雇用でも、同様の仕事を継続していながら、賃金が大きく減少するのは、政府が進める「同一労働、同一賃金」の原則を破ることにもなる。そこで、よく行われているのが、賃金に見合うように労働量時間を減らしたり、労働量を減らしたりする方法だ。
必要なのは「お金」だ!
とはいえ、これほどピント外れの対応はない。「60歳定年以降の社員が問題にしているのは、労働時間や労働量ではなく、賃金そのもの。半減された賃金に合わせるような労働条件を求めているのではない」(大手銀行を退職した高齢者)。
したがって高齢者雇用では、骨太の方針で示されたように、高齢者雇用のための賃金制度の見直しと新たな構築が重要となってくるのだが、問題は、「高齢者を雇用した場合の賃金体系は、企業全体の賃金体系に影響を及ぼす」(大手製造業人事部担当者)という点にある。
限られた人件費の中で、高齢者の賃金引き上げや待遇改善は、おのずと現役社員の賃金に影響を及ぼす。「事実、総人件費が膨らむことを避けるため、企業の中には時間手当の割増率を引き下げたり、現役社員の賃上げを抑制したりするケースもある」(前出の人事部担当者)そうだ。そうなれば現役社員にとって、60歳定年以降の雇用者は「自分たちの賃金上昇を阻む邪魔者」との思いが芽生えてくる。
では、実際に企業の中で60歳定年以降の雇用者と現役社員とでは、どのようなことが起こっているのか――。次回はこの点について取り上げてみたい。(鷲尾香一)
(つづく)