摩訶不思議!? 政府の高齢者雇用対策(その1)守れるはずない「同一賃金・同一労働」の原則(鷲尾香一)

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   とはいえ、これほどピント外れの対応はない。「60歳定年以降の社員が問題にしているのは、労働時間や労働量ではなく、賃金そのもの。半減された賃金に合わせるような労働条件を求めているのではない」(大手銀行を退職した高齢者)。

   したがって高齢者雇用では、骨太の方針で示されたように、高齢者雇用のための賃金制度の見直しと新たな構築が重要となってくるのだが、問題は、「高齢者を雇用した場合の賃金体系は、企業全体の賃金体系に影響を及ぼす」(大手製造業人事部担当者)という点にある。

   限られた人件費の中で、高齢者の賃金引き上げや待遇改善は、おのずと現役社員の賃金に影響を及ぼす。「事実、総人件費が膨らむことを避けるため、企業の中には時間手当の割増率を引き下げたり、現役社員の賃上げを抑制したりするケースもある」(前出の人事部担当者)そうだ。そうなれば現役社員にとって、60歳定年以降の雇用者は「自分たちの賃金上昇を阻む邪魔者」との思いが芽生えてくる。

   では、実際に企業の中で60歳定年以降の雇用者と現役社員とでは、どのようなことが起こっているのか――。次回はこの点について取り上げてみたい。(鷲尾香一)

(つづく)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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