一歩を踏み出す前に読む 手書きの「社史」が3代目社長に伝えたこと(大関暁夫)

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先人に学ぶ

   会長室に入り、向き合って話を始めると、真っ先に私に見せたものは、自身がまとめた実父の創業に始まる手書きの社史でした。

「私は常に父の創業精神を肝に銘じ、社員にもそれを浸透させて会社を成長させてきました。Nが新規事業をやりたくて私を煙たくに思っているのは知っています。事業の詳しい内容は知りませんが、今のままではきっと失敗します。
何かを手がける時に、先人に学ぶ精神を忘れてはいけません。一歩を踏み出す前に、社長と社員に会社の歴史に学ぶ機会を是非つくってください。私は今のままでは、創業者である私の父に対しても申し訳が立たず、とてもとても引退などできません」。

   手書きの社史は、戦前満州での創業に始まり、終戦後内地に戻って祖父と父が試行錯誤の末、事業を築く流れを時系列に沿って書かれたものです。そしてそれは、手書きの迫力と共に会長の語り口が読み手の心に直接届く、じつに感動的な読み物でした。

   会長の説得役だったはずの私は、鬼気迫る会長のお話を聞き、この手書きの社史を読み、逆に社長説得役に変わるという流れに至りました。

   N社長に手書きの社史を手渡すと、「会長が出社する、と日々書いている過去の備忘録ですね。社史を作りたいようなので、会長の最後の仕事にしてもいいとは思っています」とそっけない対応を見せました。私は会長から聞いた話と手書き社史で読んだいくつかのエピソードを伝えて、とにかく社史をじっくり読んでよく考えて欲しいと話しました。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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